閑話休題1-13【推しだよ、ファンだよ応援しなきゃ!】
徐々に押され始めている。数の上での圧倒的な戦力差が働き始めている。もはや時間の問題だと、誰もが思っていたそんな時に、
「はい、集合」
と突然、美里が救護班の人間に声をかけて、皆を集める。
「みんな大丈夫? 怪我とかない?」
と言う美里。途中の点呼なんだろうか、と思いきや、彼女から突然宣言される。
「そう、じゃあ、推しががんばっているので、これから私、ギルドを裏切るので、後は、各個の判断でね」
と言って、爽やかな笑顔で、彼女たちを置いて、戦いの渦中に駆けて行った。
そこにいる全員、あまりのことに状況の把握に手間取っている。と言うか、一体何が起こったのか全く理解できずに、ぽかんと立ち尽くしてしまう。
取り残された雪華以下5名はただ見ているしかなかった。美里は途中に2人を加え合計3名が、戦列を離れて、こともあろうか、あの少年たちの仲間についた。
「え?、何? 一体、どう言うこと?」
ようやくと言うか、我に返って一番最初にそう口を開いたのは奏であった。
「裏切てしまったみたい、よくわからいけど、もう味方じゃないって事?」
未だ雪華は混乱の渦中にある。
そして、あのラミアと共に敵対する少年達の味方についた美里はこう宣言した。
「すいません、確認できました、真壁 秋ファンクラブ312号です、会員規約第1条第4項に則り、助太刀させていただきます」
続いて、他の今までギルドのメンバーとして戦っていた他の2人も、「同じく、89号」「同じく、132号」と続く。
その言葉を聞いて、
「ああ、そうか、あれが真壁 秋なんだ、ってことはその横で戦っているのって、東雲先輩?」
奏は何かを納得いたような感じで呟く。
「一体、どう言うこと?」
未だ疑問の闇の中を彷徨う雪華は、救いの様に、その答えを奏に求める。
「道場でさ、結構しつこくファンクラブの誘いを受けてたって言ったじゃん、その真壁秋だよ、それに前言ったじゃん、これから通う中学校の女子のルール、近づいちゃいけない男子の話、小学校でも有名だったじゃない」
「ごめん、わからない」
「ほんと、雪華ってそう言う話に興味ないよね」
「どうして、美里さんが裏切ったのか、そこが知りたいんだけど?」
「だから、ファンだからよ、推しだからよ」
「????」
「だから、真壁 秋ファンクラブの会員なの」
「??????」
「だから、ファンなのよ」
奏が強く押せば押すほど困惑の度合いを強める雪華である。
「ごめんなさい、本当に何を言っているのかわからないんだけど」
「だって、推しだよ、ファンだもん、助けるよね、普通、ファンだし」
いつまでたっても2人の平行線な会話である。
そして、雪華が美里の心理を理解できないまま、戦いはたった3名の裏切りを得て、今度は彼ら、つまり真壁 秋方に傾き出す。
雪華同様、間違いなくギルドの構成員たちは混乱していた。
そんな最中、唐突に戦いは終了する。
見ると、真壁秋、そして薫子を中心として、まるで人でコロシアムを作る様な形になる。
再び、この鏡海の間が静寂に包まれた。雪華は自分の呼吸する音すら騒音になっているのでは、と言う静けさ。そして、その口火を切る様に響く声。
1つが、
「秋さん、非常に残念ですが、『王様』同士の戦いに一任されました、ここからは俺はどうすることもできません」
そして、もう1つが、雪華の知る麻生の声、
「真壁氏、このまま私たちギルドの介入も可能なのだが、おそらく双方の犠牲を出した上で最終的にはこの形にたどり着くのだ、だから、無駄は省かせてくれるとありがたい」
その言葉に、雪華は驚き、そして納得して呟く。
「王の一騎打ちだ」
ファンだどうこうとかはわからない雪華でも、こっちは知ってる。と言うか読んでいる。暇にかこつけて、幾度となく麻生の元に足を運んで、雑居ビルの分室の中にある資料。
概ね、ダンジョンの構造、モンスターの種類と確認されている特性や、数。その中でも目を引いたのが、このダンジョンに存在する3人の王の存在。
言うなら、それは、一般に言われる『王』とは異なるもので、権威や権限という話ではなくて、発揮できる能力である複合したスキルの総体。つまりクラス。
正直、未だ雪華にとって理解しがたい内容であったが、今、その『王』と呼ばれる者が2人いる。
1人は、あの真壁秋。
そしてもう1人が、その前に立つ薫子。
こうして対峙してみると、真壁秋は、薫子に体格では負けている。