閑話休題1-12【窮地を微笑む少年】
大抵は、スキルは生まれ持った物が、成長過程において能力の有無を発現、中には稀に、ダンジョンに入ってから発現する人もわずかにいる。
そういう人間は、ダンジョンによって寄与されたと考えられており、途中発現するスキルはどれも、例外無く強力なものばかりだ。
だからきっと、雪華もそうなる。と奏は信じている。
「まったく、ふざけんな!」
と未だ怒り続ける奏を、
「いいからいいから、早く済ませて安心しよう」
と自分のことで腹を立ててる友人を宥める。なんとも奇妙な感じである。
見れば、雪華の他に来ていた3人は作業を中断して、何かをお喋りしている感じである。その姿を見て、
「あいつら!」
と再び怒を露わにする奏であるが、それを宥めて、作業を続ける雪華だ。適当な事をされるくらいなら、邪魔にならないほうがいい。そう考える雪華だ。
それに、同じくらいの年齢かもしれない彼等、このくらいの歳の男の子ってあんなものしれないと、そう思っていた。
そして、すべてのけが人の確認が終了する頃、今だ戦いは続いていた。
その戦いは、40対3という、数の上での圧倒的な有利の上で展開されている。筈なのだが、巨大なラミアを中心とした容疑者たちはありえないほどの善戦を繰り広げている。
そして、あの、雪華と同じ年くらいの男の子は、本気でラミアを守っている。
1人で4、5人を相手にして、未だどこか楽し気にニコニしているからすごい。
気がついた時、全員の安否を確認して、生命に異常無しが終了した時、救護班の人間は、戦列から離れた場所に固まって、その戦いの様子を見ていた。
戦いといっても、容疑者グループの防戦一方な形で、それが維持されている現状だった。本当に、器用に避けたり受けたりしている。あの剣士さんは、避けるのが上手な人なのだと雪華は感心していた。
そして、気がついた。
あの怒っていた奏でが、さっきから一言も発していない。
固唾を飲んで、その戦いぶりを見つめているのだ。
「やっぱり、気になる? 同じ剣士として?」
軽い気持ちで聞いた雪華だ。続けて、
「強いよね、あの子」
すると、奏は瞬きもするのも惜しいと言わんばかりに開いた目を、その小さな剣士から逸らさずに言う。
「うん、ちょっとデタラメなくらい」
「へえ、強いんだね、あの子、そんなに凄いの?」
雪華も、あの名も知らない、自分と同じ年くらいの少年は強いと思った。それが奏のような、スキル持ちの剣士に肯定されるなんて、自分も案外見る目があるじゃないと、嬉しくなってしまう。
でも、奏はもっと深刻に感じている。
その彼女から出た言葉は、
「強いなんてもんじゃないよ、私がこれから先、このダンジョンで剣を振るい続けたとして、あの境地に到達できる自信ない」
その言葉に思わず目を凝らしてしまう雪華だったが、その境地とやらは全く理解できない剣とは遠い雪華である。
普通にうまい具合位避けているようにしか見えない。
そして、もう1人の女の人、彼女は木刀で、その少年と共に戦っていた。
少年よりも若干年上に見える。その大人びた少女もまた、少年と同じように一度に何人もの襲いかかるギルドの剣士を相手に大立ち回りを演じている。
確かに彼等は強いと思ったが、それで現実的に生きる雪華にとっては時間の問題だと思っていた。
その時はそう思っていたのだ。