閑話休題1-10【綺麗に表面だけを焼かれた者たち】
雪華と奏が、数人を助けて、その身を通路側に搬送し始めたときには、既に戦いは開始されていた。
雪華達は、次々と倒れている人達、黒装束で焼け焦げた人たちの声かけから始めて、歩ける人は歩けて、そうで無いひとは他のギルドの人と協力して外に連れ出すと言った具合だ。
救護班として振り分けられたのは雪華を含めて6人。50人以上いる傷病者達に手分けして当たることになる。この辺は、打ち合わせも無し要領良くテキパキとこなす雪華だ。
「こっちからは、私が当たるから、出口近いところからお願い」
と美里が言う。
戦闘領域に近いところはなるべく雪華や奏には近づけない配慮が感じられた。
雪華と奏は手分けして倒れている黒い人たちに声をかけ安否を尋ねる。
驚いたことに、当初、見た目で想像していたような重症な人間は皆無で、せいぜい焼け焦げているのはその黒いローブ、そして髪の毛など、人によっては綺麗に眉毛やまつ毛を焼き払われている人いた。ともかく、怪我人とまで言える人間の存在は皆無であった。
それでも、未だに意識が朦朧としていたり、体が動かせない人がほとんどだった。
一体、何をされたらこんな風に人を倒せるのだろう?
雪華には想像もつかない戦いが展開されていたことだけは確かだった。
そんな中、その黒い集団の中にあって、1人だけ全くの無傷、右手に大きな氷のペンダントを持って腰を下ろしている女の人がいる。
雪華達から見ると、かなりの年上な印象がある。
「大丈夫ですか? お怪我とかないですか?」
雪華はそう声をかけてその顔を覗き込み、意識の有無を見ようと彼女の目をまっすぐ見つめると、その目は涙に溢れていた。
彼女の目は正面から見つめる雪華など目に入らないように、ただ、ハラハラと涙を流し続けている。
何かを言っている。唇は動いている、しかし、この声は言葉を構成せず、ただの音としてし唇から漏れ雪華の耳には届かない。
完全に人が、壊れている。一時的なものかもしれないが、彼女を見て誰もが思うだろう。
あの容疑者の人たちがこれだけの数の人間を相手にした結果だと雪華は思う。
「一体、どうやったら、人の表面だけをこんなに綺麗に焼けるんだよ?」
どうやら奏も同じ印象を持ったらしい。
「炎の魔法と同時に防御魔法をかけて、温度と圧力を使って壁みたいに、ああ、ダメだ、これだけの数なら、魔法スキルの人間が1000人単位で必要だよ」
と、さすがに魔法スキルを持っているだけあってそれなりの持論を繰り広げるも結局答えには辿り着けない。
「おい、お前ら、遊んでるなよ!」
と、突然にそんな言葉をかけてくるのは、雪華と同じように、この救護班に参加させたられた男の子だ。
こんな状況だ、自己紹介などする暇などないから、互いの名前など知らない。
「あ、ごめんなさい」
と確かにぼーっとしていたと謝る雪華の前に奏が出て、
「こっちの持分は終わってるよ、そっちの方が遅いんだろ?」
見ると、未だに終わっていない人もいる。雪華としては、持分がどうのこうのではなくて、ここはできる人が終わらせた方が良いと思ったから、素直に謝ってしまう。
「いいよ奏、他も手分けしよう」
と言うと、
「最初からそう言えば良いんだよ、運ぶ時は呼べよ」
と、一応気遣いは見せるが、行ってしまう。
「待てよ、このハゲ!」
「ちょっと、奏!」
声をかけてきた男の子は決してハゲではない、短髪なだけだ。
でも、さすがに奏の満ち満ちの悪意だけは伝わったのか、
「なんだと、このやろう」
と立ち去ろうとした短髪の男の子は、奏に歩み寄る。
中腰から、立ち上がる奏の背は、その短髪の男の子よりも頭一つ大きかった。
その上からの柏陵に、思わずたじろぐ短髪の少年である。