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閑話休題1-9【現場到着!!救護開始!】

 室内に入った瞬間、雪華の鼻を着く匂い。


 この匂い、嗅いだことが無い。


 ものすごい臭い、焼け焦げた匂い。


 それは人の一部が燃えた物だと、鏡界の海に入った瞬間に雪華は理解する。


 「うわ、エグい」


 奏は思わず鼻を摘んでしまう。


 中には、この浅い海に浸るように、焼け焦げた人間が、ここにいるギルドの構成員の数と同じくらい、倒れている。


 死んでいる?


 いや違う、生焼けにされているのだ。


 倒れている人たちは一様に皆同じ黒いローブを纏っているが、まだ端が焼けていいたり、全体的に煙を上げている人もいた。


 その多くは、蠢き、そして呻いている。


 死んでいない事だけはわかる。そうだ死んではいない、だから焼かれて苦しんでいる。

それはある意味残酷な事だ。


 雪華達は気がつくことはできないが、この焼かれた人間を炙った炎は、命を取ることはしなかった。ただ、体の自由を奪うほどの苦痛を与える程度の焼かれ方をしている。指一本動かす抵抗力すら残されていないのだ。


 これだけの数、50名をくだらない人間を同時に炙り、また同じ効果を付与できる炎を使用することがどれほどデタラメな能力であるか、今の雪華達には知る由もなかった。


 雪華が初めて目にしたダンジョンの戦いは、正確には既に勝敗はついていたのだから、残酷なほど一方的な結果だけが、今目の前にあった。


 「河岸さん、下がって、あまり前に出ないで!」


 美里の叫び声に、ハッとする雪華だ。


 奏も気がつくと、自分たちが、随分と前に出ていたことに気がついた。本来なら、助けられる者を助けて、先頭領域から離脱するのが雪華達の仕事である。


 でも、雪華は前に出てしまう。


 見たいと思った。


 それは、奏も同じだ。


 この戦いを繰り広げて、そして、今まさにギルドと戦おうとしている敵の正体を知りたかった。


 敵は、巨大なモンスターだった。


 あれはラミアだ、エルダーラミア。雪華は知っている、ダンジョンのことは概ね学習がすんでいる。初めて見るモンスターは、おそらくモンスターの中でも美しく気高いモンスターだった。


 その銀色の肢体は本当に綺麗たと、こんな状況でも思えてしまう。


 雪華の目に映る敵は、大きなエルダーラミアを背後に従えて、ギルドに対峙している。


 1人は、女の子、そして、その中心に立つのは雪華とそんなに年も離れていない風の男の子だった。同じくらいの年齢かもと雪華は思った。背も低いし、随分幼い顔をしている。 


 その彼が、喜耒と対峙している。尋問を受けているような形だ。


 ただの事実確認だと雪華は思った。なぜなら、既に麻生は戦いを始めていたからだ。彼らが問答する場所から少し離れて、麻生は茶髪、いや金髪なヤンキーと戦っている。


 そんな光景を見ながら、雪華は不思議だった。


 全く、怖さが自分の中から消えていたのだ。


 多分、その少年を見たせいなのかもしれない。こんな世界で、緊張した状況で、彼は真剣に話しかける喜耒に対して、言い方が悪いけど舐めているのか、ニコニコしている。


 このダンジョンの中に置いて、まるで自分の家の中にいるかのようなリラックス。


 そんな態度だから、喜耒がイラついているのが見ていて手に取るようにわかる雪華だった。


 全くと言っていいほど2人の会話が噛み合っていないのが可笑しかった。


 そして、力が抜けて落ち着いた雪華は冷静さを、いつもの雪華に戻る。そして、その少年の声が雪華の耳にもわずかに届いた。


 「いや、だって、あれ、良いラミアだし」


 この言葉に、その場にいたギルド全員が呆れていた。


 多くのものが|ダークファクト《ダンジョンから影響を受けた異常行動者》勢力と断定に至るが、雪華から見ると、どう見ても宿題を忘れた小学生が言い訳しているようにしか見えなかった。


 だから、ハッと気がつく。


 見惚れている自分に気がついてしまう。


 ここに来た理由も、さっきまでの覚悟もみんな忘れてしまうくらい、雪華は、その少年を見つめていたのだ。


 それは、変な人って言うのもある。変わった行動を取っているのだから、その原因を探りたいと思う自分がいるのも理解できる。


 しかし、自分が彼をみたいと思う欲求は、そんなものではないなと言う事を、これが全てのきっかけだった事を雪華自身はずっと後で知ることになる。


 しかし、今は……。


 だめ、私はここに遊びに来たわけではない。


 それを思い出す。


 再び、周りを見渡し声をかけ始めた。


 「動ける方いますか?」


 いつもの自分に戻って、倒れている人に声をかける。


 ともかく、雪華にとって、ダンジョンでの長い一日はこうして開始されたのであった。

 

 

 


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