閑話休題1-8【名工の父、娘の矜持】
鉄工所であった、雪華の会社は、建築の需要が落ちるてきている現在においても、北海道ダンジョンにおける武器や防具を生産する会社としてますますの繁栄を続けている。
かつて父に訪ねたことがあった。
「どうして、剣を、カシナートを造ったんですか?」
すると、父、直人は照れる様に笑いながら、一つはダンジョンの中にまともな武器がないと言う話を聞いて、ある意味、奮起した。年齢的に入れないから、何かしらの関わりを持ちたかった。そして最後に、
「父さんも昔、ワードナーと戦っていた時に、この剣にはお世話になったんだよ」
と言っていた。
最後のワードナ―というのは今一つわからなかったが、父らしい人に寄り添った工業製造だと思えた。
家をほっぽりだして、科学の粋を、ありもしない仮想金属の研究に没頭する、あの母とはちがって、尊敬できる自慢の父でもあるのだ。
その後も結構饒舌に父は雪華に聞かせてくれたのだが、途中途中最後の方は少しわからない雪華であった。印象に残っている。あとバッソならミスリルだのファーランドだのと、おそらくは父の仕事の金属加工の専門用語が多くて雪華には理解できなかった。
そんな時は大抵聞き流すような耐性が雪華にはできてしまっている。鋼材の職人としての父なら仕方のないことで、自分もおいおい勉強して行けばいいと、雪華はそんな風に思っていた。
そんな父をとても立派で尊敬できると思っている。だから、今度は私の番、私が父の目になり耳となって、そしてダンジョンウォーカーの人たちの役に立つんだと、そう心に誓っていた。
そんなことを心に決めたのは当時、まだ小学校低学年の頃。この想いに、今も揺るぎがない雪華なのだ。
痛いのは怖い、死ぬこともあり得る、でも父の分まで自分が頑張ると決めたんだ。
しかし、そんな想いは簡単に揺らいでしまって、臆病な自分に驚いていた雪華だった。
後にそんな雪華に奏はいう。「それでも来たじゃない」、そう言われて、初めて気がつく。ああ、私は恐怖を克服できたんだ。と。完全じゃない、でも行動はできた。
雪華の今は、自分が描いていた理想と怖さから逃れられない現実をほんの少しの勇気でつなぎとめて持てた物だ。
そして、それは奏がいたからこそできたことなのだと、いつだって側に寄り添う親友の存在に感謝に耐えない雪華だった。
「到着した、私と喜耒くんで前にでる、前衛種のスキル保持者、もしくは直接戦闘を望む者はその後ろで、後衛種スキル保持者はその中に点在するように混ざってくれ」
と麻生は全員に声をかける。
そして、
「救護班は、その後についてけが人の救助を頼む、優先順位は傷病の軽度でなく、安全に助けられるものから助けるように、なるべく室内から引きずり出してほしい」
麻生の言葉に、奏が大きな声で言い返した。
「私も、そっちがいいです」
すると麻生は、笑って。
「それはダメだ、これから先端は、経験者に任せてほしい、君も前衛スキルがあるのなら、今後のためにも、そして何より仲間のためにも不足な事態に備えてほしい」
「あ、はい、わかりました」
とあっさり下がる奏をみて、本当にこの状況で積極的に出れることに感心した。
「やっぱり、奏はすごいね、私とは違う」
と隣にいた奏にいう雪華なのだが、奏は横に首を振って、
「んーん、違うよ、前に出ないと足が竦んじゃうからさ、全力入れて誤魔化してやろうかと思ったんだけど、あの偉い人には見透かされているみたい」
と言う、奏の気持ちが、全く理解できない雪華は、やはり普通に臆病者なんだと自覚してしまう。
「さあ、入るわよ」
美里の言葉にハッとする雪華。いよいよ、救護を命じられた雪華達が鏡海の間に突入する順番が回って来た。