閑話休題1-7【名剣 カシナート】
そんなありふれた小さな工場の日々が劇的ともいえる変貌を遂げたのは、雪華の日常が変わったのが、このダンジョンが出現した時だった。
その後、現在に至るまで、北海道経済の中で語られる『ダンジョン特需』から日常は瞬く間に書き変わってしまう。
建築鋼材の需要は高まった。そして、2度に渡るブローアウト事件。世に言う、北海道ダンジョンが外にはみ出てしまって、2度に渡って札幌を壊滅寸前まで追い詰めた事件によってさらに建築関係の仕事は増える。会社はどんどん潤い初めたと言うわけだ。
ここまでなら、ダンジョン需要によって莫大な利益を得た、言うなら時代に乗った企業として、この北海道には珍しくもないありがちな話としてサクセスストーリーとして幕を閉じるのであるが、雪華の父親の場合、少し違っていた。
彼女の父親が作った、一振りの剣が、この会社を全国に、いや、全世界に知らしめる結果になった。
社長である、河岸 直人の名を冠した『河岸 直人の剣』、現在、人間が鋳造する剣の中では最高峰の剣。
もちろん、この国には古くから刀鍛冶と言う特殊な技術があって、『刀』があるのは周知の事実であるが、その刀と言う兵器は通常の人間では使用るすることが出来ない。
砕いた言い方をするなら、刀は素人が扱える様な武器ではないのだ。
特にモンスター相手なら尚更で、北海道ダンジョンに刀を持って行ったダンジョンウォーカーは数入れど、それを十分使いこなしたのは、『侍』と名乗れる特殊スキルを持った数名の人間のみであとは、どれ程高価な刀を使用してもダンジョン内では全く役に立たなかったと言う話が残っている。
侍と言うクラスがあって、莫大な破壊力を生む刀は、所謂、一般向きの武器ではなくて、限られたダンジョンウォーカーにとってのみの兵器と言う事実は現在は周知されているが、かつては衝撃の事実だった。
その後は、それなりに使えそうな武器を外国から輸入するが、どれも製品としての性能が悪く、また、モンスターとの戦いには向いてはいない様で、一部の槍の様な柄の長い武器が主流になりつつあり、中にはバッドや木の棒を利用するダンジョンウォーカーが数多かった。
当時はまだ、モンスターに対して、ダンジョンに適合する武器の存在が皆無で、運よくダンジョン内の敵が持っていた武器や宝箱の中から曰く付きな武器や防具を手に入れるのは中階層以下で活躍するダンジョンウォーカー達で、特に深階層まで潜るダンジョンウォーカーにとって、性能の良い武器の入手は死活問題でもあった。
そんな時代に、雪華の父が生み出した一振りのバスタードソード、通称バッソの存在が囁かれる様になる。
すごい使い易い剣がある。
スキルに左右されない剣がある。
ノービスが使っても強い剣らしい。
当時は、建築の需要に応えるための最盛期な工場の隅で、趣味の様な形で一振り一振り作られていた剣。
そして、これこそが後に、『名剣カシナート』と呼ばれる、ダンジョンウォーカーの御用達の剣となる。
これは、雪華の父親が経営する会社、河岸製作所が作り出す武器の全てに言える事なのであるが、誰がどんな人間が使っても安定したダメージを出す。と言われている。
しかも、モンスターと対戦した場合、剣を振るう侍の様なスキルのある人間と全くの素人である人間との打ち込む攻撃能力はほぼ同等と言われていて、言い方が悪くなるが。この剣さえ持てれば、武器依存でモンスターに戦いを挑めるいっぱしの戦士になれるのだ。
もちろん、経験を重ねる事で、攻撃能力は増して行くことになる。
言い換えるなら、スキル無しでも戦士に変えてくれる武器、そして剣を作り出したのが、雪華の父に他ならない。
カシナートは当時、中型バイクを買える程度の金額と言われていたが、そんなお金は、ある程度の腕を持ったダンジョンウォーカーなら、深階層で数日で稼ぎ出せる金額であったので、この確実に役に立つ剣は飛ぶ様に売れた。