閑話休題1ー2【恐れと不安と責任と放棄】
雪華達のように、ダンジョンに入ることができる年齢からギルドの構成員になる人間も確かにいるが、決して多くはない。
そして、言い方が悪いが、雪華の場合はしっかりと親のコネを使って自分が、自らの意思でギルドの参加を希望したのだ。
ダンジョンウォーカーとしても新人、そして、ギルドの構成員としても新人。
それでも一応は、北海道ダンジョン、そしてそれに伴う必要とされる知識は雪華が思う物にいついての学習は一通り済んではいる。
全くの初心者で、いきなのダンジョンに入るにあたっては、雪華の様に足がすくんでしまうのも仕方がないと言えるだろう。
余すことなくその知識はある。
だから、知るからこそ怖いと思う気持ちもある。
くわえて出しても恥ずかしくないくらいの新人ダンジョンウォーカーの彼女たちだ、特に奏の方は戦闘向きスキルを持つ身でありながら、未だ模擬刀しか持たされておらず、これは雪華にも言えることだが、ギルドからの正式武装はまだ与えられていない。
本来であれば、中学生活と同時にギルドの構成員として、ダンジョンに入る予定だった。
その後、毎年恒例になっている今年度からダンジョンに入れなくなってしまう人たちからの武器や装備の申し送りをされる予定であった。よって現在の彼女達はギルドの公式武装は何もない、つまり精神的にも物理的にもまったく無いのである。
まるでむきたての卵のような新人である彼女たちにすら、『スクランブル』緊急出動要請の打診が入る。
現在、彼女たちを呼び出すギルドは相当切羽詰まっている様子で内容を把握する限りそれは、ダンジョン自体の危機、札幌、いや北海道自体に危険が迫っている内容のものであった。
彼女達の受け取ったメールの内容を大まかに説明すると『エルダー級のモンスターのダンジョン外への進出行動の阻止』そして、それがダンジョンウォーカーによって故意に引き起こされたものという情報があるので、『その周辺にいる容疑者と思われるダンジョンウォーカーの逮捕』というのが主だった内容だ。
雪華も奏ももちろん、ギルドの構成員である以上このスクランブルに名指して呼ばれている。
ちなみに正式にダンジョン内学生援護会、通称ギルドに加入したのは2週間前、そして受理されたのが昨日の彼女達がである。
まさに昨日の今日での出来事ということだ。
そのギルドの招集は命令ではない。あくまで協力要請なのだ。
ギルドの運営は、学生相互の自主性に任されている。
だから、この時点で、『行かない』を選ぶのは自由なのだ。
幾ら何でも急すぎる。しかも確実にモンスターがいる、相手はエルダー級の化け物だ。
雪華の動揺も仕方のない事だと、同情すら感じてしまう。
しかも、奏と違って、に雪華の場合、あくまでダンジョン適正はあるものの、スキル的にはノービス(スキル無し)の一般参加者枠での登録であるため、奏と違ってダンジョン入る為の訓練は、特に戦闘に関わる訓練などは全く受けてはいなかった。
奏のようなスカウト組に限らず、本人の希望があれば、ダンジョンに入る前から訓練を受ける事が可能である。
特に札雷館などの数ある複合的格闘団体は、『ダンジョンに負けない青少年育成条例』の制定から、積極的にその訓練に広く門を開いている。
一方、雪華はと言うと、彼女の場合はあくまで一般参加、本人は、割とボランティアに近いと捉えていた。つまりは、毎年恒例の修学旅行生の案内とか、迷子の捜索、その他一般事務が彼女の仕事だとそう聞いていた。だから、いきなりの戦闘区域への参加に完全に足がすくんでいる状態になってしまっているのも無理はないと言える。
こわばる体は、行動の中止を命ずる。
いけない、絶対に無理。
戦えない彼女にとって、それは至極当然の、人としての判断だと、未だ逃げ出したい気持ちが、自分にそう言い聞かそうとしているのである。