第162話【突然の謁見??】
1人教室にポツンと残される僕。
いつの間にやら教室には僕だけが残ってる形になる。窓の外を見ると、今にも泣き出しそうな空模様だ、仕方ない、僕も帰ろうと、そう思って席を立った瞬間に、それをまるで見測るように、葉山さんが出て行った方とは逆の扉がガラリと空いて、
「秋くん、帰ろう」
と春夏さんが入ってきた。
物凄い、ドンピシャなタイミングだ。
そんな春夏さん、腕に包帯を巻いている。
浅階層のジョージの時にちょっと悪化したって言ってたから心配していたんだよね。
あのラミアの一件の時の怪我、別に誰かに手傷を負わされたって訳じゃない、彼女から籠手とか取れる人っていないから、それはないって僕にもわかるんだけど、この怪我は他ならない彼女自身が原因で負ってしまった怪我なんだよね。
彼女が振るう木刀の衝撃に彼女の自身の腕、というか手首が耐えられなかったんだ。
これは、彼女の体がもろいって事じゃあなくて、あくまで、今回の戦いが、鍛え込んでいる彼女の体の許容を超えてしまったって事なんだ。
木刀って、言うなれば、打撃系の武器なんだよ。角田さんのバットと同じ、強い力で奮えば、そのインパクトの衝撃は、直接本人の振るう腕に還って来る。
つまりさ、相手をぶっ叩くと同じ衝撃が春夏さんの腕に戻って来る、で、今回は敵の数が多くて、しかも今までみたいに小さなものとか紙とかじゃなくて、概ね人間と戦っていたから、春夏さんの腕にも相当な負担がかかってしまったみたい。
剣道の竹刀って、そう考えるとよく出来た武器というか用具だと思う。攻撃される方もさることながら、攻撃する方の衝撃とかも完全に緩和しているんだからね。
もっとも、北海道ダンジョンの場合、相手に対しては、相手は敵であって、モンスターとかなので、そう言った気遣いとか、むしろ求められるのは殺傷能力なので、木刀って事になって、今回みたいな事態を引き起こしているっていう訳なんだよ。
彼女は侍で、そのスキルは『斬撃』にあるから、今回の怪我で考えないといけないって事で、本格的な、僕が持っているようなマテリアルブレードみたいな『切断』を目的にした武器を持たないとって話になったんだ。
だからその手の話しで、今日は札雷館に行くじゃなかったけ、新しい武器がどうのこうので。
「春夏さんって今日は用事があるんじゃなかったけ?」
「秋くんと、帰ってから行くからいいよ」
それじゃあ、位置的に引き返す事にもなるよね。
「それじゃあ、遠回りだよ」
一応は、効率の良い方を推薦しようと言葉に出そうとすると、
「大丈夫だから、一緒に帰ろう」
有無を言わせない強引さがあるよね、こういう時の春夏さんは積極的だよ。
「僕はいいけどさ」
それで2人して帰って、なんだけど、どう言うか訳か、角田さんも合流してきて、
「じゃあ、俺も」とか言ってた。
どうして角田さんが校門近くにいたのかわからない。今日はダンジョン行かないよ、って事前に連絡はして置いたから、ワザワザ来なくてもいいのにって思う。ってか、この人どこに住んでいるんだろ?
ともかく、なんか3人で帰ろうって事で、歩き出す僕らの背後に誰かが駆け寄ってくる。
そして声をかけてくれるんだけど、その言葉が、
「陛下!」
そんな言葉をかけられて、自分だって思う人はそんなにいないよね。
自覚できる人って、多分、石油のでる国のあたりとか?
あまりこの界隈では聞けるような種類の形容じゃないよね。
だから僕のことだなんて思わないから、そしてここにいる人でそれに該当する人物はいないから、変わった名前の人もいるもんだって思っていたら、
「秋陛下、お待ちください」
秋は僕だけど、陛下? って、と振り向くとそこに、なんか小さくて可愛らしい男の子がいた。
いや僕と同じ制服だから、1年生かな? なんか幼くて可愛い。
そんな子がニコニコしながら、僕をジッと見ている。なんだろう、ものすごいテンションで、喜びが体からはみ出ちゃった感がすごい。
「ああ、秋陛下、早急な謁見のご無礼をお許しください、並びに感謝いたします」
って、片膝ついちゃったよ。ちょっと何してるのこの子、天下の往来だよ、なんか道ゆく人にも注目されちゃってるよ、僕ら。
驚いたのは、角田さんと春夏さんにそれほど驚いた様子がないことだよ。知り合いなんだろうか?
ってか、そう考えると、僕もこの子、どっかで見たような…。