第158【浅階層の悪鬼】
僕らもそれなりの覚悟をして行くからね。他人を構っている場合ではない気もするし、この前の、ラミアさんやら桃井さんやらの事で気心を知れない相手の連携の難しさは思い知っている訳だし、シリカさんのスキルの使い道にもう少し早く気が付いていれば、他にやり方があったんじゃあないかって思う。ってな事を以前、角田さんに言ったら、
「上出来な部類です、満点以上を求めてるのなら後悔も構いませんが、あれ以上の解決作はなかったと断言しますよ秋さん」
って言う言葉を頂いているけどさ、僕としては「う〜ん」って感じなんだよね。
すると真希さんが、
「それは『虎の威を借るライオン』だべさ」
?? って顔をしている僕にさらに真希さん。
「言い方が悪かったべか、それを言うなら『ヒグマの皮を被ったグリズリー』だべか?」
真希さんが何を言いたいのかさっぱりわからない。
「あー、真壁氏は強いから、自分を必要以上に弱く感じる必要もなければ、人に遠慮する必要もないと、特に工藤氏や私の前で隠す必要もない、って事を言いたいんだ、これは私も同意見だよ」
「そう、それな」
って真希さんがいう。
よかった、麻生さんがいてくれて。話がここから全く進まなくなりそうなほどの謎な諺とか使わないで欲しいよ、余計に混乱するじゃん。本当にダメな人だよ、なんで、使いきれないのに壊滅的な諺とか故事とか使って来るかな、一度この辺をきちんと言い聞かせないと本当にだめだなこの人は。って思わず怒ってしまう僕だ。
もちろん、そんな残念な真希さんに対する怒りはともかく、他ならない真希さんのお願いなんで、快諾した僕だけど、一緒に行く以外にも色々と条件を出される。そんな難しい事ではなかったから、こっちも快諾。
それから1週間後に僕は、ギルトの人5名と、浅階層のジョージと戦ってきた。まあ、そこで、僕は今まで気がつきもしなっかった事を色々と考えさせられることになったんだけど、それでも、僕の立場というか、今後の行動には差し障りがないので、割愛させていただいて、サクッと終らせて来た僕と春夏さんだったよ。
強さ的には全く大したことがなかったんだよ、浅階層のジョージ。
まあ、その後が大変だったけど、それはまた別の話ね。
ちなみにギルドの5人のうち1人は、あの時の救護班の女の子だった。
なんか、ものすごく、恐縮されてしまって、気を使ってもらっちゃったよ。
もっとも、目の前で腕を吹き飛ばされた僕なんかを目の当たりにしてる訳だから、その心境は察して有り余るものがあるので、僕の方としてもその辺は可もなく不可もなく、上手に対応しておいたよ。彼女、ヒーラーとしての素質が結構あるみたいで、卵の様に大切に育てるんだって、真希さんが言ってた。
「でさ、聞いた? 例の噂」
って葉山さんが僕に耳打ちをするんだよ。
こんな可愛い葉山さんがそんな事したら、興味なくても「なになに?」ってなるじゃん。彼女の言う事には、
「『浅階層の悪鬼』って言う、ダンジョン史上類を見ない危険なダンジョンウォーカーが現れたんだって」
え? うそ、初めて聞いた。
「ほら、私、7丁目ゲートから中階層をショートカットして深階層に行ってしまうから、浅階層って行かないから、真鍋くん何か知ってるかなって思って」
僕はすぐさま首を振った。
本当に知らない。でも悪鬼かあ、なんか危険な感じだよね、そんなのは平和な浅階層にいないで、早く深階層に行って欲しい。
なんか、名前も怖そうだなあ、ってちょっとゾットしてしまったよ。