第153話【くそ! おぼえてやがれ!】
ガッツリとやり合ってる僕ら。
その全てが弾かれ弾いて、まともになんて入らない。
昔、聞いたことがあるけど、剣の達人同士が同じレベルで決闘した場合って、バッサリ切られて打ち倒されるってのはないんだって。
大抵は、同じレベルの長い攻防の末に、小さな傷をたくさんつけてのその傷からの出血による出血性ショックによる気絶、貧血で、ばったりって感じになるんだって、今まさにそんな戦い。
あ、今の例だと、僕とクソ野郎さんが達人同士になっちゃうね。でも、こうしている今、一番その例が近いかもね。ちょっとおこがましいけどね。
互いの顔を突き合わせて、思う存分、攻撃に特化した剣をふるって、バランス取れてるから、攻撃がお互い防御になっているだけの事で、それでも、偶に弾かれた刃や切っ先が、ザクザクとお互いの体を傷つけ合ってる。
今、僕の目の上あたりも生暖かい感じがしているから、額、浅く切られてるなあ、クソ野郎さんも頬とかざっくりだ。とか言っている間にほっぺたに衝突感だよ。
それにしても、こんな状況でクソ野郎さん、笑ってるんだよ、信じられない。
「なに笑ってやがる?」
なんて言われて気がつく。僕も笑ってた。
おかしくはない、多分、楽しいんだ。
困った、どうしようもない程に楽しい。僕が傷つき、クソ野郎さんを傷つけているこの状況が楽しくて楽しくて仕方が無い。まるで快楽殺人でも行う人間のように、刃物を使って人を切りつける行為が楽しくて仕方ないんだよ。それを自覚する僕は、この感情をはじめて、この身に体感したんだ。
多分、きっと、これが、蛮性なんだろうな。
人を傷つけ、力で他者をねじ伏せたいって原始的な欲求よって存分に体が動かせる喜び?。いや、そんなものですらない暴力の根源。
社会に生きている僕らにとっては、忌むべき感情。普段は絶対に出てこない衝動。
ああ、そうか、北海道ダンジョンって、こんな気持ちも受け入れてくれるんだな。
素直になれよ、戦いは楽しいだろ?
殺傷はもっと楽しいだろ?
切り裂いて、押し潰して、粉々に破壊してこそ進む事ができるんだ、ここはそう言う世界じゃないか。僕らはそれに適応している。
そうなんだよ、ここは『北海道ダンジョン』殺人すら許容されている世界。
今更ながら自覚してしまう。
強ければ強いほど、上位に行けば行くほど、僕らは窮屈になって息をひそめる。
でも、ここにはそれがない。
めいいっぱいだった、社会の常識が楔を打つ、その上限だって開放してくれる。
精一杯、殺し合う。
大丈夫、後は、この北海道ダンジョンが面倒見てくれるんだ。
だから、戦いに、恨みや憎しみもない。
あるのは、ただ純粋な闘争。
モンスターに飽き足らず、同じ人間同士で争う、僕は今、愚かで酷い人間を自覚して血まみれになりながら咽び喜んでいるんだよ。さっきの黒い集団の魔女の人を責められるような立場じゃ無いね。
「悪りぃ、30秒過ぎてた」
と言うクソ野郎さんの一言で、蛮性による暴力への渇望が一気に消え、現実に帰る僕だよ。
本当に、その声でみるみる現実に醒めてくんだ。
残念、状況終了かあ、じゃあ段取り通りに、
僕は1回、カキンとクソ野郎さんの剣を横薙ぎに払うと、大げさに後方に下がるクソ野郎さん、その背後には、鏡海の間の唯一の出口がある、よおし、これで、全部終了だ、長かったなあ。
「くそう、覚えてやがれ!」
クソ野郎さん、ちゃんとお約束のセリフを吐いて出口に向かってお姉さん共々下がる。
その姿を、あの時、あの地下歩行空間の時と同じようにギルドの人たちが真希さんを先頭に
「待て! このクソ野郎!」って追ってゆく。
ああ、一応の形になったよ、って思ったら、一瞬、フラッと来た。嫌だな、立ちくらみだ。って、よく見ると結構傷ついてるな僕、浅くたくさんの傷で血だらけだよ、僕、片目に血が入って沁みる沁みる。
「大丈夫ですか?」
ってギルドの救護班の方が、この少し離れた場所まで駆けつけてくれた。なんか小ちゃくて可愛らいい女の子だね。
凄い心配そうな顔してる。
「全身、切り傷だらけじゃないですか! 動かないでください、すぐにヒーラーの方を呼びます」
って言われて、うわ、僕、マジで血まみれじゃん。
学校のジャージもメタメタになってるよ、ほんと、遠慮しないでやられたなあ、なんて考えてたら、その子、引いてるんだよね。
「楽しんですか?」
って、小さいけど、まだ幼さの残る綺麗系な顔を驚きにゆがめて彼女は言うんだ。
だから、これは本音だけど、
「うん、だね、ダンジョンは最高だよ」
って、答えておいた。
そんな言葉しかでなかったよ。