第152話【狂王VS愚王 390秒間の海上戦争】
いつの間にか見物している人の輪がコロシアムみたいになって、僕らを取り囲んでいた。まあ、そうなるよね、なんて言っても『王の一騎打ち』だからね。それなりの距離が、おかげで僕らは割と本気に見える戦いを演じ続けている。さっきの喜耒さんとやっていた時よりも静かな感じ
「本気って、どのくらい本気なんですか?」
「そりゃあ、もちろん、相手を即死させるくらいの勢いだよ」
「え? そんな、僕、クソ野郎さんを殺す気ないですよ」
「できない、じゃなくて、『気がない』って事は『殺れる』って思ってるって事でいいんだよな?」
またそうやって、人の言葉尻を捕まえて言うなあ。でも、油断している短期決戦なら行けるって思っていたのは事実で、ものの見事に見抜かれている以上、僕の勝ち目は薄いかな、それでもやってみないとわからないけど。
「まあ、心配すんな、死んでも生き返る、安心して死んどけ」
「痛いの苦手なんですよ」
僕の言葉を、クソ野郎さん、かなりアグレッシブにとってくれたみたいで、
「始めるぞ、死至る、死がありえな死闘だ、本気出して来いよ」
鍔迫り合いみたいな、そんな形の僕らは、互いに剣を通して押し合い、ちょっと、友達になったばかりの遠慮がちな友人距離、離れて落ち着いたかな、って思ったら、この水を打ったような静けさの中に、急に手を打つ音が1つ響いた。それが合図になった。
ひとまず前に、間合いを詰める、瞬時に互いの刃の間合いだ。いや、振りかぶる剣を避けようともしないよ、あっという間に恋人距離、そして、また友人距離、剣を合わす事なく、クソ野郎さんは交わして、僕は振り下ろし剣に連れて行かれて体が流れてしまう。
ああ、そうだよね、やれるんなら、こう言うのもありだ。なんて言っても全力なんだから。
そして、僕の首を含む上半身にクソ野郎さんの刃は振り下ろされた。
「ハハ! 取った!」
やらないよ。振り下ろされるクソ野郎さんの刃に刃先を合わせる。つまり同じ角度で刃を刃でうけた。まあ正確には刃を切っ先ってのが正解だけど。
カキンと弾いてあげない、やんわりと、受け止め、流しちゃう。ほら踊って。
「おお?」
よし、驚いてる、じゃあ、腕もらうね。
僕のマテリアルブレードの刃は、真っ直ぐ4センチ突き出すだけで、クソ野郎さんの利き手の腕を亡き者に、って思ったんだけど、なんか同じ事された。
「おお?」
今度は僕が踊ちゃったよ、なんだ、うまくやられたなあ、これ初めて母さんから一本取りかけた黄金パターンだったのに。その瞬間のリカバリーも上手くいなされてしまう。
隙ないなあ。
「隙がねえな」
同じ事を思ってた。
「チィ、しゃあねえな」
それは、僕も思う。お互いに姿勢を正して、もう1回距離を取る。もうすでにわかっていることがある。
この人、強いって言うか、僕とスタイルが噛み合いすぎる。つまり面倒臭い。手が読める、手が読まれる。駆け引きが無効化される。こうなると力づくでいくしかない、単純な速度と力のぶつけ合いになる。
マジ? なにそれ、超楽しい!!
だから、もう1回。
僕は前に出る、同時にクソ野郎さんも。
一度、刃が合わさる。そこで距離は固定された。
強いて言うなら、『友達以上恋人未満』な距離? 0じゃないけど、剣の間合にしては接近しすぎな距離。
そこで、壮絶な打ち合いが始まる。って言うか、始めたのは僕なんだけどね。
ちょっとでも引いたら、臆したら、一気に押し込まれる。
もう足なんて動いてなくて、意識は振るう剣の後について来る感じ。
いいな、クソ野郎さん。
いいな、北海道ダンジョン。
もう、最高だよ。