第151話【クソ野郎さんとマー坊】
現時点で、このクソ野郎さん姉弟はを定義するなら、『不思議姉弟』と言うことで、大まかにまとめて、これ以上は考えないようにしよう、今の時点では。
「なんだよ、納得行かねーってか?」
って、面白そうにクソ野郎さんが僕に言うけど、まあ、それは仕方ないよね。
ここは常識も非常識も一揃いの場所、なんたって、
「北海道ダンジョンだもんね」
「ああ、北海道ダンジョンだな」
って意見の統一が図れた所で、今後の事を相談しようと思う。
「あの、悪いんですけど、逃げてもらえませんか?」
今の現状から脱出するためには、原因をなくしてしまえばいい。真希さんの言っていた、クソ野郎さんは無しの方向で、ってのは、つまり、彼さえこの場から消えてしまえば、ここの混戦はたとえ僕がその原因の中心にあっても一時終了する。この一回終了するってのが大事なんだ。
相手はギルドなんだから、戦う意思のない人しかいなくなる状況ができる瞬間さえあれば、後は真希さんまかせだけど、この混乱は終了する。つまり今の混乱は、ラミアさんと僕が連れてきた問題にクソ野郎さんって問題がうまい具合に上書きされてる状態だから、今の原因というか匂いの元を断つと言う感じ、ゴミは早めに捨ててしまうに限るよね。ちっとも片付かないよ、早めによっこしよう。
だから率直に言ってみた。どっかの悪役みたいに尻尾を巻いて逃げていただきたく、そう思う僕だ。
「まあ、そうだな、浅階層でこれ以上はやり合っても意味ないしな、真希は今回は遊んでくれなさそうだから、そろそろ潮時かなとは思っていたんだ」
よしよし、意思の疎通は完全に一致ってことで、次は方法なんだけど、
「このまま、打ち合いながらクソ野郎さんの背中を出口の方へ誘導しますよ、不自然じゃあないように」
あ、直接本人にクソ野郎さんとか言っちゃった。やば、って思ってみるとクソ野郎さん、かなり怪訝な顔。
「お前な、そのクソ野郎ってのな」
ほら、怒らせちゃったよ。面倒臭い人に、面倒臭い事を言ってしまった。
「俺をクソ野郎って呼んでいいのは、トイレに行かない生き物だけだろ?」
ん? どう言う事?
「つまりな、お前も、俺も、大便をするって言うのは仕方ないことで、そう言う広い意味では、爬虫類や鳥類以上の哺乳類はみんな大便排出のシステムを備えた消化器官を持つ『クソ野郎』って事になるよな?」
ん、んん?
「ここにいるみんながクソ野郎って事になるんだよ、それがわかって言っているんだよな?」
「いや、あの」
僕、もう、シドロモドロだよ。
「まあ、それを踏まえた上で、俺をクソ野郎というなら、それはお前の勝手だけどな、一応『さん』付けだしな、お前、生意気そうだけど、一応は目上に気を使うのな」
え? クソ野郎さん、ってのは良いの? いいんだ、許可をいただいた事にびっくりだよ。
「じゃあ、俺もお前を愛称で呼ぶけどいいよな? 名前なんつったけ?」
「真壁 秋ですけど」
「真壁か、真壁、真壁、ま、まー」
苗字の方をイジるつもりらしい。
「まー坊はどうだ? いいな、なんかしっくりこねえ? いいじゃん、マー坊だ、決定な」
いつか僕、この広いダンジョンどこかで、ヤン坊に出会うのだろうか? そしてその時には新たなスキル、天候の予報とか出来るようになってしまうんだろうか?
ちょっと、いろいろ想像してしまった。
もうすっかり、どうでもいいんだ、僕状態で、多分、表情もなくしていたと思うだけど、そんな僕に、
「じゃあ、最後にマー坊にお願いがあるんだけどな」
ヤン坊いないから、天気予報ならまだ無理ですよ、って言おうかな、って思っていると、クソ野郎さん、5本の指をピッと立てて、
「5分だ、5分間、ちょっと本気でやり合わねーか?」
って言い出した。
びっくりした、クソ野郎さん僕と同じ事かんがえてたよ。
ちなみに、今もこうして打ち合っているから、端から見れば一応激しく戦い合っているようには見えると思うけど、それ以上を求めているってことかな。
気がつけば、ギルドの人たちも、今度は僕らの戦いを見守っている。春夏さんも心配そうにその中に混じって僕を見ているよ、角田さんと、麻生さん、真希さんもいる。