第144話【全ての北海道銘菓はシリカの為に】
鏡界の海、その水面に月が現れる。
大きな、まるで、ここにいる人を全部が月の上に立ってるって錯覚させるくらいの巨大な月の映像。
本当に月だ、満月が僕らを飲み込んで拡大され、そして爆風となった。
うわ、なんだこれ? あのお姉さん、導言の発言がないかったよ。全く口が動いていなかった。完全に満月が起こした月に行動の自由を奪われる僕の前に、クソ野郎さん、前住さんだっけ、が来た。彼はまるで、この暴風を無視するように歩いてくる。
その僕の前に、春夏さんが立つ。
おお、こっちも影響をあんまり受けてない見たい、なんかコツでもあるのだろうか? 今度聞いてみよう。
「いや、何もしねーよ、お前らは時間がかかりそうだからな」
と、僕でなく春夏さんに言ってから、
「お前、あのラミア助けたいんだろ?」
声を出そうとするけど、全く動けない上に、この爆風の中、声なんて出せないから、ひとまず頷く僕だ。
「じゃあ、シリカを使え、こっちは邪魔すんじゃねーぞ」
と、謎の念を押してから、
「あと、お前、スプーン持ってっか?」
え? クソ野郎さん、じゃなかった、前住さんまで何言ってんの? って思いつつも。首を横に振る僕。持ってないからね、スプーン。
「なら、しゃーねな、他に方法を考えるんだな」
そこまでで、きっかり10秒、唐突に爆風は止む。
そしてクソ野郎さんは叫ぶ、あ、前住さんだった。とてもわかりやすく盛大に宣言する。
「お前は後回しだ、ひとまず因縁だ、真希、麻生、弱っちい姉ちゃん!」
と大声でわかりやすい若干棒読みな説明をしてから、ギルドの方に突っ込んでゆくクソ野郎さんとそれに付き従うお姉さんだ。
ひとまず助けてもらったのかな、って思ってから、彼がクソ野郎さんって事思い出し
て、多分、目的が合致しただけだろうって思った。
「大丈夫ですか、秋さん」
って、角田さんが近づいてくる。
「角田さんも大丈夫ですか、あっちに味方しなくていいんですか?」
なんか、麻生さんや真希さんとか旧知の仲っぽいんで気を使って言ってみると、
「いや、義理はないですね、それにアレがいるっていうことは、俺が出ると、戦況は拡大するだけで、いいことなしですから、今の状態の方がまだマシです」
多分、アレとはお姉さんの事を指しているって事はわかる。
とりあえず、こっちは全く無視された状態だけど、ここでようやく落ちついてラミアさんの方に対処できる。
ラミアさんは、瀕死は変わりなかったけど、さっきよりは若干元気そうで、身を起こして、シリカさんを懐から出してくれた。
ああ、2人とも無事だね。
そして、シリカさんはあいも変わらず呟くんだ。
「スプーン…」
って。
ああ、そうか僕はようやく気がついたよ。
最初から、シリカさんの持ち物に過不足なんてなくて、全てが必要なものだったんだ。あったのは忘れ物だけだったって事だね。
「シリカさん、それを食べると、この状況をなんとかできるんだね」
ってさっきから手に持っている夕張メロンピュアゼリーを指して僕は言った。
頷くシリカさん。ここでようやく確証が持てた。
シリカさんは、最初から、この状況をなんとかしようとしていたんだ。
それに、僕が気が付かなかったって事だね。
多分、必要なのは糖質という名のエネルギーなんだ。
彼女のマッパーとしての異例の能力には、多分、頭脳への直接的なエネルギーの供給が必要で、その段階に応じて、持っているお菓子の種類があったんだ。