第143話【ああ、クソ野郎さんだ!】
今日は服装というか装備が違うんだね、彼女も。目深に被ったフードでわかんなかったよ。
ああ、納得だ。
今日はこの前とは打って変わって、全く勇者さんみたいな格好だからさ、この前のなりとは全然違うから、本気でわからなかったけど、口調とか態度とかで思い出すべきだったのかもね、僕。
そんな僕に向かって、
「死ねよ! 馬鹿野郎!」
ってクソにバカって言われる。
そこでようやく、クソ野郎さんの持っている武器、鎖の付いた槍みたいな変な武器の使い方がわかる。つまり攻撃してきた。
クソ野郎さん、槍を投げて、そして鎖の方をさらに力を乗せて振るい打つ。すると槍はまるで生き物の様な動きを見せつつ、加速して目標に向かって飛んで行く。
すごいね、あんなの当たったら串刺しだよ。
まあ、させないけどね。
させないっていうのは、クソ野郎さん、僕に怒鳴っておきながら、狙っていたのは僕じゃあ無いんだよ。
「え?」
って喜耒さんが驚いている。彼女まるで無防備だった、無理もないよね、あの会話の中で自分が狙われているなんて夢にも思えないよ。
「させないよ」
僕は喜耒さんの前に立って、その飛んできた鎖槍を弾く。何だ、口調ほどもなく、大して力も乗っていなかった。
喜耒さんは、全く自分がクソ野郎さんの攻撃目標になっている事に気がついていなくて、それは、麻生さんも同じだった。
「喜耒くん!」
って後から叫んでいたもの。
「おいおい、なんでわかるんだよ、お前って思うだろ、普通に俺が狙うのは?」
そうだね、僕に怒鳴っておきながら、攻撃したのは喜耒さんだもの、しかも目標の方も見ようともしないでさ、サッカーで言うところのノールックパスをインターセプトしたようなものだもんね。
でも、答えは簡単なんだよ、
「だって、『横奪』って言ってたから」
と答えた。僕のことは懐柔しようと思っていたからね、それは多分本気だったんだよ。
だから喜耒さん、この人、乱暴で粗暴で怒り狂う程を見せてるけど、怒ってなんかないよ、わかるよそのくらい。恐ろしいくらい冷静で計算高い、この人。
本当にクソ野郎さん以外の何物でも無いよ、こんな事できるの。正々堂々なら思いつかないし、普通に常識な人間関係の中で生きているなら思いついてもできない。
この現状において、一番弱い人を狙ってる、確実に倒せる人間から倒して行く、しかもまさか自分になんて油断している人なんて、最も潰しやすい。
さらに、喜耒さんが倒された場合は、うまくすると、ギルド側に大きな隙も作りやすいし、真希さんや麻生さんも潰せるかもしれないし、横奪て言ってたから、美味しいリカバリーだらけ。
そして、確実に王の一人を取りに来たんだ。
卑怯者の考えつく作戦って、感情や流れを無視するなら、一番理にかなっているんだよね。それでも実際にこうして実行できる人間がいるってことに驚きという名の衝動を隠しきれない僕がいるんだけどね。本当にこの人、ヤバイ。
「やっぱ、お前、おもしれーわ」
いやいや、笑えないでしょ。
「チッ、しゃあねえな『アモン』掻き回せ、10秒持たせろ」
「わかりました」
クソ野郎さん、あ、前住さんだっけ、その人が命じると同時に、お姉さんの周りに、巨大な円が、それはまるで、水面に映る月そのもののよう。
その効果も想像できない僕は、浅い海に映る月の姿に一瞬見てれてしまったくらいだよ。