第140話【さらなる混戦】
「だいたいな、これだけの人数のギルドの人間相手に手を抜くって、アッキーお前何様なんだべ? ちょっと強いからって調子に乗っちゃったってか?」
腹部をドスドスと小突かれる僕、地味に痛いよ、真希さん。
「良く言うべ、『肌けた王様』はダメだべ、せめてパンツは履けって言うべ?」
裸ね、『裸の王様』とかなんとかね、ってなんで僕ネチネチ怒られてるんだろ?
「真壁 秋、あなたパンツを履いていないって…」
って、そっちもガチに引かないように、比喩だから、比喩表現だから、なんの比喩かはわからないけど。
真希さんの登場により状況が限りなく拡散して行くけど、
「ひとまず、後でまた話を聞くからな、したっけ、少し離れておくべ」
と周りの人にはそう言って、
「アッキーは、もう少し近くへ来るべさ」
ってもうピタピタになっているって言うのにさらに前に出てくる。
「真希さん、近い近い」
「これだけ近いと、アッキーもドキドキしてるべさ」
「そりゃあ、ドキドキもしますよ」
うん、まあ、違う意味でドキドキなんだけどさ、
「そんなに固くならなくてもいいべさ」
「そりゃあ、固くもなりますよ」
先に言っておくと、ギルドの広報で可愛らしいお姉さんと、俗にいう恋人距離でドキドキしてるんじゃないからね、そっちじゃなくて真逆に生命の危機を感じるくらいの力量のさにビビっているんだからね、ツンというわけじゃないく、ガチでビビているだけなんだから。
今の僕の現状っていうか、この現状と対峙している心境をいうなら、吹きすさぶ札幌の街を歩く僕が、一瞬、視界を吹雪に取られて、ドンとぶつかった人に、ごめんね、って言おうとしたら、それが全長330mのタンカーでした、って感じかな。ここ、海上じゃないけどね、そのくらいの質量差を感じているんだよ。
え? なんで? って心境、ありえないよね、色々と。
ガチに、出会い頭にヤバいのに出会った感じだよ。そりゃあ、真希さんが僕を殺すなんて思ってはいないけど、触れたら死にます、って感じのものと恋人の距離。北海道新幹線が本気で走るその車体が鼻先1センチを掠めて行く距離に固定されている感じ。
だって、この人、いつものゆるい感じで話しているけど、その小さい体からは、何とも言い難い、雰囲気っていうより、強大な質量ってか、固まりっていいうか、ゆるぎない存在っていうか、にこやかな笑顔にすら『必殺』の力が漏れている様な状態。
そんな人とひっついているのって、嬉しいわけがない。
そんな凶悪な存在感があるんだよ、今の真希さん。今日は隠してないし、マジで逆らえる気がしない。
「何言ってるべ、恥ずかしがっていないで、こっちに来るべ、当たるべさ」
あ、やばい。
なぜか知らないけど、そう思った。どこからか何かが来た、それもかなりヤバい何かが
「ほら来た」
この言葉と同時に、真希さんは入口の方を向いた。僕に背を向けるような格好になって、なんかすごい轟音を伴って、死角と言うより、僕と真希さんを包み込むみたいに、何かが襲いかかって来た。それはもの凄い量の冷気だって肌で感じてわかる。
というか、衝突した。ってか爆発だね。で、消滅した。
ほぼ反射的に僕は、剣と盾の両方を使ってガードしていた。
周りには粉々になった、土砂が大量にふりそそく、あ、これ氷だね。
ドサドサとふわって、本当に大量の雪と氷が水面に落ちた。
なに? 今の?
すると、僕を懐に抱いたまま、片手を天に掌底を突き出したような姿の真希さんが言う。
「おお、アッキーいい反応だべさ、あれは追尾するからね、よくとっさに避ける方を選ばなかったね、偉いべ、アッキー」
「真壁氏の動きは百戦錬磨の戦士の様だな、確実に見えていなかったはずだ、これは真壁氏に対する評価を大幅に修正しなくては、『コモドオオトカゲ』クラスから、大幅に修正せねば、『エゾリス』クラスの喜耒くんでは荷が重すぎたようだな」
麻生さんの強さに対する動物を使った段階表現に他に何があるのかが気になる僕ではあるけど、今はそんな場合じゃないからそこはスルーしておく。
で、現状を把握しようとする僕なんだけど、何をされたか全く見当もつかない、多分、魔法の類だと思う。
一体、何処から、誰が……。
その答えは、いつか聞いた事のある、下品でいて何処か堂々とした笑い声と共にここ現れたんだ。