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第137話【僕にとってのダンジョン】

 ダンジョンに入る目的かあ……


 そうだよね、目的も、それによって得られる結果も、そこに生まれているであろう欲求や欲望さえも、人によってはの発生や捉え方って難しいものね、価値観の共有ができていない初対面の人なら尚更だよ。


 すると、喜耒さんは、


 「質問を変えます」


 と言って、一呼吸置いてから質問した。


 「真壁 秋、あなたは何者なんですか?」


 「僕はただのダンジョンウォーカーだよ」


 これは即答だね。


 だって、他に何があるのさ?


 そりゃあ、今日は自分自身でもビックリするような事実かどうかもわからない事がいろいろ判明して、角田さんあたりにいろいろ聞いてみようとは思うけどさ、その事実一点についてはまちがいないじゃん。僕はダンジョンウォーカー、札幌にお住いの一ダンジョンウォーカーだよ。


 すると、喜耒さんは、急に黙って、肩を震わせる。何か我慢しているみたい。


 ん? 笑ってる?、ああ、喜耒さん笑ってるよ。


 「わかりました、真壁 秋さん、あなたはバカなんですね」


 酷くない?


 でもまあ、かもね、ってのはあるんだよね、だって誰が好き好んでこんな危険なダンジョンに入ろうと思うのさ、ギルドの人たちみたいな崇高な義務もないしさ、1日3体のモンスターを倒す義務以外は好きにしている訳だし、バカって言えばバカなのかもしれない。


 「秋さん、正体を見破られてしまったって感じですね」


 愉快に笑いながらバカの仲間が言った。


 色々言われていたり、スキルのことを知ったかもしれないけど、僕自身はダンジョンウォーカーで、それ以上でも以下でないんだよ。


 なんかスッキリした。


 そのスッキリしたところで、急に麻生さんがおかしなことを言い出す。


 「あ、喜耒くん、真壁氏、楽しい語らいの中悪いが、王の戦いは一旦中止だ。お互い剣を引いてもいいし、このまま戦い続けてもいい」


 すると、角田さんが、


 「なんだ、見逃してくれるのか?」


 「いや、違う、今回は我々の勝ちだ」


 「何を言っているんだ? お前の後継者、秋さんに押されまくっていたじゃないか、ここで秋さんが戦いを収めるってのは筋が通らねえ、秋さんがあのお嬢ちゃんを負かして終わりだろ」


 「そうだな、このまま戦えば、いい加減、真壁氏も落とし所してそんな決着をつけるだろうが、その前に、ここにギルドの『最大戦力』が来る、そうなったら、この微妙なパワーバランスはあっさり崩れ我等の方に傾く」


 「どう言うことだ?」


 「いや、今、連絡があってな、すぐに駆けつけるそうだ」


 なんか、角田さんの顔色が悪い。つまり、ギルドの本体が、いよいよ最下層からこちらに向かって来るってことらしいけど、まだ十分時間はあったはずじゃあないかな。


 角田さんが大きな口を開けて、何かを叫んだんだけど、その声が発せられるより早く、この鏡海の間の入り口で、『ドン!』と言う、轟音が鳴り響く。まるでダンジョン全体がその音に震えるように広い海にも波紋を生んだ。


 たどりついたのはギルドの本体なんかじゃなかった。


 来たのはたった一人。


 僕には見えた。何かがこちらに向かってきている、いや、違う、これ軌跡だ。あまりの速度にその軌跡だけが残像の様に、器用に他の人を避けながらもそれでも一直線に僕に向かってくる。いや、もうすでに僕の目の前にいる、と言うか完全に懐に入られた。もう顔を付き合わせるくらいの距離にいる。


 ギルドの最大戦力は僕にこう言うんだ。


 「おはよう、アッキー」


 「今、朝なんですかね? なんか時間の感覚がなくて」


 「私は、その日最初に会った人には『おはよう』を言うんだよ」


 挨拶の概念が残念なギルドの最大戦力は満面の笑顔で、僕にそう告げたのだった。


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