第136話【僕にとってのダンジョン】
それにしても、ちょっとこの喜耒さん、剣の扱いが雑だなあ。
一応はそれなりの構えから綺麗に振り下ろしているんだけどさ、幅広のバッソならこの使い方はとても理にかなっているんだけど、キチンと刃先まで力が通ってない。
これじゃあ、1割未満の力で弾かれて残り7割ほどで致命傷なくらいの攻撃が入るよなあ。
しかも僕の持つ、マテリアルブレードって、切れ味半端ないからさ、適当な位置から斬り上げても、いいのが入ってしまうんだよね。もう必要なのは手首だけって感じ。
この使い方って、切れ味の鬼みたいな日本刀なんかよりも上な気がする。刀を使った事がないからわからないけど、なんか『ライトセイバー」なくらいの切れ味があるんだよ。こっちも使ったことがないからわからないけどね、例えて言うならそんな感じ。おそるべきだよ、『現代剣』
一度、思い切り振り下ろして来たんで、それを合わせて、ひとまず弾いて、僕と喜耒さんは距離を明けた。
「強いですね」
って喜耒さんが言う。
「いえ、それほどでも」
と僕が言う。それは事実なんだよ、僕は未だにお母さんにすら敵わないからさ。
「1つ伺ってもよろしいですか?」
僕は彼女の質問の良し悪しを無言で答える。どうぞご自由に。
「なぜ、あなたはダンジョンに入っているんですか?」
その答えは容易い。でもそれが僕を知らない人にとって理解できるかどうかは怪しい。
道を歩く人に、どうしてこの道を? と尋ねた場合、大抵の人は多分、目的の為の手段だと答えるだろう。つまり行き先が決まっているからこの道を通るのだと答えると思う。
じゃあ、散歩している人にその問いを投げかけたらなんと応えるのか、っているのが僕の答えだと思う。
「あなたがダンジョンに入る目的とは、|ダークファクト《ダンジョンから影響を受けた異常行動者》勢力の拡大ですか? それとも、一部の勢力のようにダンジョンそのものの支配や破壊を望むことですか?」
そんな勢力もあったのか、怖い怖い。
「答えてください、あなたほどのスキルと能力を持った人間はなんの目的でダンジョンに入るのかを私は知りたい」
「それは、空か被りだね」
って行ったら、角田さんが、「それを言うなら買いかぶりですよ」って教えてくれた、横で麻生さんが大笑いしている。ちょっと恥ずかしい。
ん、まあ、いいや。
「目的か、目的、目的ね」
ひとまず思い浮かんだフレーズを口にしてみる。
「そこにダンジョンがあるから」
「意味がわかりませんが」
って即刻返されたよ。うん、これは言っている僕もあんまりだと思う。本当に言ってみただけだけど、でも実際、この一言に尽きるんだよね。
あ、気がついたら、会員番号312号の人が「マッキー、カッケー」とか言いながら、熱心にメモを取ってるよ、それ僕のことじゃないよね。マッキーって真壁 秋を縮めて言っている訳じゃあないよね。そんな不安に駆られながらも、僕は喜耒さんに対する質問の回答を返すことに再び集中する。
「そうだね、強いて言うなら、ダンジョンを散策するのが目的かな、テクテク歩くこと」
なんだろう、健康のためにウォーキングするおじいちゃんみたいな感じになってきた、あっちは健康志向があるだけ、武器や防具を持って薄暗いダンジョンの中を散策する僕よりは大分マシかもしれない。
なんだろう、僕と喜耒さんの質問と回答は物凄くずれている気がする。つまりはお互いに齟齬が生まれ続けていて、お互いの距離がどんどん離れている気がする。