第10話【結局、辿り着けない僕の一日目】
足から、突き上げられる、そんな感覚は、僕の体をとおりすぎる頃には面白いくらいの怒りに変わってる。
この目前に立つ、この傍若無人な男たちに対して、明らかに自分よりも低くに見て、平伏せよ、こいつ!
ってそんな感情。
冷静になると、それは僕のものではないって思うものの、たださ、今、僕の横にいる春夏さんの困ってる表情。僕へのそんな乱暴な対応に対しての憤りみたいな物を目の当たりにすると、紛れもない怒りの感情が出てくるんだ。
ああ、そっか。
彼女への、この男が起こした行動である、僕の認識するところの『攻撃』が、僕の中の意識を決定付けたんだ。
理由とかさ、事情とかさ、春夏さんと彼の人間関係なんて、どうでもいいんだ。
ただ、単純に、純粋に僕は、僕を攻撃して来る以上、彼女を困らせるって言う、行動であり、それが例えどんな些細な事でも『攻撃』としての結果とするなら、僕の取る行動なんて一つなんだ。
それはまるで、生き物がさ、生き物として、生命活動の一環としてのまだ感情にもならない原生の怒り?
生命がさ、ただの化学反応としての、そんな活動への危機からやってくるであろう、とても単純な形が、僕の心の中に姿を表す。
それは、まるで赤くて、吹き出す根元が黒くて暗いでも、信じられないほどの熱を帯びた、そんな意識だったのかもしれない。
で、その断固たる意識として確立されているのが、
彼女は、春夏さんは僕の物だ! って言う、自分でもはっきりした、そして、揺るがない意識だ。
それが形になった時、僕は一歩前に足を出していた。
その爪先に、進先に、まごう事なき『支配』の息吹を乗せて、僕は前に出る。
すると、面白い事に、奴らは後ろに下がった。
僕が距離を詰めようと前に出ると、同じ距離彼らは僕から距離と取をろうとする。
なんだよ? さっきまでの勢いどこいったんだよ? 春夏さんを困らせやがって! 意外に日の光が眩しいなあ、あ、とうきびワゴン出てる。いつの間にか僕らを中心に人の輪が出来てて、恥ずかしいなあ、とか、一瞬目に入ったダンジョンウォーカーの人の持ってる剣、カシナートだ、とか、おかしいな、変んだ、思考が散り散りになってる。
なんて変な意識が入り混じる。
で、次に見えたのは、完全に委縮してしまってる怯えた、イケメンさんの顔だ。
僕の意識は、この場の支配に到達していた。
よかった、簡単に折る事は出来た、後は二度と逆らえない様に『プチ』ってしちゃえ。
って思ったんだ。
「秋くんダメ!」
って声で、春夏さんが僕の手を引っ張るんで、ここで慌てて僕は正気にかえる。
と言うことは正気じゃなかったんだ。
うわ、なんだこれ?
自分の身に起こったことだと知って、ちょっと気持ち悪くなってきた。
「秋くん! 秋くん!」
春夏さんわかりやすくパニクっていて、僕の方を持ってガンガンと揺らす。凄い揺さぶられる。
「脅かしやがって!」
って、まるで何かから開放された様に、その男達は僕に対して、暴力的にかかって来る。
しまった。って思った。思ったけど……??
そんな瞬間、一人の男が、僕の横を通り過ぎて、いや飛んで行った。
明らかに自分の起こした行動の結果って事じゃ無くて、誰かに飛ばされてるって、そんな飛び方。
もう、モノの様に飛ぶ。
続いて、二人目、そして三人目。
綺麗に飛ばされて、僕らを囲む人の壁が無くたったと思ったら、もっと大きな人がヌウって前に出てきた。
僕らに狼藉を働いた、例のイケメン長身乱暴者さんも背は高かったけど、それ以上の長身。
顔もさ、結構なイケメンだけど、どっちかって言うとシャープな感じ?
その顔がニカって笑って、僕を見て言う。
「秋さんに狼藉とは太えやろうどもだ、こんな奴ら秋さんが本気出すまでもありませんよ」
って、とてもその容貌からは想像もできないくらいな、どこか落ち着いたインテリジェンスに溢れる声。
来てるのは僕らと同じジャージなんだけどさ、ラメ入ってるやつで、どこのしまむらで買ってきたんだよ? って感じのヤツ。
肩に担いでるのは、金属バットで、それで人を打ち飛ばしてたみい。
そりゃあ飛ぶよね、金属バットだもの。
足は、この寒空にサンダルだった。頭は散切り頭の襟足長めの茶髪だし。
少なくとも僕の生活圏には存在しないタイプだな、って思った。
僕はその時、ひとまず思ったのが、
「誰?」
って一言だった。
「来いよ、チンピラども、秋さんに害をなそうってなら、俺が相手になってやる」
って、凄いかっこいいセリフを言って、もう頼りがいも半端ないんだけど、でも、
「誰?」
そして、次の瞬間に僕は進むべき方向とは真逆な、つまりやって来た方向に腕を引っ張られるんだ。
「秋くん、秋くんは私が守るから!」
って、凄い勢いで引っ張られて、どんどん4丁目ゲートから遠ざかる僕だよ。
邪魔したイケメンたちもなんか叫んでるけど、いや、春夏さん、今日はダンジョン初日だからね。
って言おうとするも、僕の手を引く春夏さんの真剣な表情に、頑なな行動に、もう何も言えなくなっしまう。
いや、ほら、僕、女の人がさ、真剣に行動している時に、そこにかける言葉も反対する意志なんて持てないから。
まあ、春夏さんがそうしたいならいいや、って感じになる。
つまり、こうして、僕にとってのダンジョン初日は終わったんだなあ。って
入りたかったなあ、ダンジョン。
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