第135話【王対王 一騎打開始!】
麻生さんの言葉を合図の様に、角田さんだけじゃなくて、この場にいる人の全てが戦いをやめていた。自称、僕のファンを名乗る人たちも、春夏さんも剣を納めている。
「秋さん、非常に残念ですが、『王』同士の戦いに一任されました、ここからは俺はどうすることもできません」
という角田さんの言葉に続いて、
「真壁氏、このまま私たちギルドの介入も可能なのだが、おそらく双方の犠牲を出した上で最終的にはこの形にたどり着く、だから、無駄は省かせてくれるとありがたい」
って麻生さんも言う。
つまり、この喜耒さんと僕が一騎打ちでこの決着をつけるってことらしい。
で、改めてというか今更思うのもなんだけど、僕は『王様』なんだよなあ、自覚ないなあ。
そして攻撃の前に、他の王様から設問が開始される。
喜来さんは、僕に対して、ちょうど、割と近めな『知人』距離で、僕の顔を真っすぐ見て口を開いた。
「あなたが、真壁 秋なんですか」
「はい」
「王なのですか?」
「そうみたいです、よくわかりません」
「この場を支配しようと思いますか?」
「いえ、別に、ただラミアさんは逃がしたいです」
「それは、そこの桃井 茜と同じ理由ですか?」
「いや、僕はこの人のこと知らないし、目的って言われても…」
「世界を『撹拌』『混ぜる』そうですよ、世界とダンジョンを混ぜるつもりらしいです」
何それ? 初めて聞いた。
けど、なんとなくだけど、ラミアさんが必死でその桃井さんを守る姿に、僕はそれほど危険な感じはしなかったなあ、確かに彼女はラミアでモンスターだけど、自分を助けたってこともあるけど、あの笑顔は信じるに値するなあ、って思ったんだ。
だから。
「ごめんね、よくわからないけど、それでもラミアさんは助けようと思うよ」
「残念です、あなたを|ダークファクト《ダンジョンから影響を受けた異常行動者》勢力と断定します」
「うん、まあ、仕方ないね」
「では、参ります」
そう言って、一呼吸おいてから、喜耒さんは僕に斬りかかって来た。
僕たちの、彼らの言う所の『王』の戦いが始まった。
ひとまず、防戦で様子を見る。
この喜耒さん、麻生さんと同じ太刀筋で、むしろそれを忠実に再現しようとしている。
本当に、麻生さんを尊敬しているのがわかるよ。
「なあ、角田氏、真壁氏はどこかで剣の手ほどきを受けて来たのか? それに目が良い様だな、札雷館の門下なのだろうか?」
「いや、違う、本人曰く、剣は『母さん』にだそうだ、本人曰く、どこにでもいる普通の中学生だそうだ」
「いや、いないだろ、あそこまで剣を使える中学生は」
「だよな」
「恐らくは、普通の許容が何者かによってありえないほど拡大されて、今まで上手に隠されて来たのだ、彼の言う普通にはとても興味深いものがある」
なんて勝手な事を言っている角田さんに麻生さんだったりする。
いや、普通だよ、たまに母さんと一緒に山菜採りに行ったくらいかな。でも、それって札幌周辺に住まう札幌市民なら当たり前のことだよね。ただ、熊との遭遇率がいつも100%だったんだよね、やっぱり、いっぱい取れるところは熊も来るよね。
それ以外だと、母さん意外と剣の稽古? みたいなこと、したことないんだよね。
だから、自分の置かれてるレベルってのも母さん以外と比べた事もないからわからないんだよ。