第134話【ダンジョン不適合者】
僕から大分離れて、あいかわらす、角田さんと麻生さんは何やら言い合いをしている。
「なるほど、常に弱き者を味方する優しい心を持ち、勝利を諦めない強い信念と、皆を信じる気高き意思を持っている。良き『王』だな、角田氏が仕えているのもわかる」
「だろ」
「しかし、ここにはもう1人『王』がいるんだ」
「だから、お前は俺が抑えているだろ、何もできねーよ!」
そして麻生さんは愉快そうに大笑いして、
「何がおかしいんだよ!」
って、角田さんに怒鳴られていた。
「いや、『大賢者』である角田氏が忘れているなんてな、大きな光の前では何もかも見通す『鑑定眼』も曇るのだな」
そして、喜耒さんに告げる。
「喜耒くん、スキルの使用を許可する、真壁氏を打ち倒し、仲間を取り戻せ」
「はい!」
と躊躇なく返事をする喜耒さんに、驚く角田さんだ。
「な!」
「はは、角田氏を出し抜けたな、思ってもみなかった、これは愉快だ」
「どういう事だ、麻生!」
「我ら、このスキルの総体、つまり一般にクラスと呼ばれる『王』はそれを指名する三柱神の介入がなくとも『継承』若しくは『横奪』が可能だ、忘れていたのか?」
「なんで、お前、あんなに苦労して! マジに『譲渡』したのかよ」
「ああ、喜耒くんは資格があると私は判断した、だから彼女に『王』を譲り渡した、この『北海道ダンジョン』の平和と安全の為なら、私の努力など瑣末な事だ」
「お前、わかってんのか? それを手放したら、お前、ただの『不適合者』だろ! 今こうしているのだってキツイんじゃないか、何をやってんだよ!」
あの角田さんが、冷静な角田さんが、悲鳴みたいな大声をあげる。
角田さんの驚きも無理はない。僕もちょっと驚いているから。
『ダンジョン不適合者』とも言われる人がいる。僕の周りにはいなかったな。
先天的にダンジョンに入れない人達の事、この場合、自分の意思なんて関係なくて、体がそれを拒絶するらしい。つまり、どんなに好きでもダンジョンには入れないって人が稀にいるんだ。
襲ってくるのは、恐怖に不快感、体調の不良は病理すら引き起こすって話だ。
例えて言うなら、高所恐怖症の人が高い位置から下を見下ろしているような状態。
あ、高所恐怖症って、普通に『私、高いところが苦手なの』っていう人じゃなくて、本当に病気の類の方、そこが建物の中にいて、ここが2階っていうだけで立っていられなくなるような人。
普通なら精神が崩壊するよ。今の状態って、そんな人が、テレビ塔の展望台から札幌の街を見下ろしている感じ。スキルが発動することで個人差にもよるけど少しは緩和されるって話は聞くけど、この人、麻生さん、克服したんだ。っていうか、今も克服しているんだ。ものすごい努力と精神力だ。
「心配痛み入る、ならば早く終わらせよう」
ここでようやく、本当の意味で、僕は喜耒さんの前に立つ。
喜耒さんはじっと僕の顔を見て、バッソを再び構える。あ、今気がついた。カシナートだ。
その深紅の鎧に、凛とした顔立ち、後ろで束ねた長い髪が揺れる。
今更気が付くけど、お姫様みたいに凛とした美しさと気高さを持ってる女子だね、ってその印象に気が付いた。
だから、凄いさまになってる。
今、彼女は自分自身に王を自覚しているんだ。
普通にかっこいいなあ、って思った。
これで僕が攻撃対象じゃなければもっと素敵なのにな、って思ってしまう僕だったよ。