第152話【前も、今も、そしてこれからも】
あ、火の鳥的な魔物な人はいいから、降りてこないでいいから空飛んでてね、なんかいろんなところに燃え移っちゃいそうだから、後、多足的な魔物の人も無理しないでいいから、どこから首で頭かもわかんないから、気持ちだけもらっておくよ。
ああ、巨人の人から、急に姿勢を変えるもんだから、肩の当たりから小さな魔物な人たちが大勢落ちて行く。大丈夫かな? 怪我とか?
ともかく、みんな僕に対してだと思うけど、平伏したんだ。
そして、僕の体にくっつきそうな程の隣の蒼さんが、「では私も……」って片膝をつこうとするけど、そこは静流が止めて、
「私たちはいいのよ、身内なんだから」
って言う言葉に、
「ええ、奥方様達はいいのです」
って桃井くんが、ドヤ顔で言うんだよね。
なんか、本当に、みんながさ、ひれ伏す中、ダンジョンに戻って行くのはギルドの人達で、4丁目ゲートが、いつもの形に治ると、そこはいつもの北海道ダンジョンなわけで、真希さんや八瀬さんとか後、雪華さんも、みんなダンジョン内に戻って行った。
それでも、そんな姿を見てると僕はさ、北海道ダンジョンが普通に残ってよかったなあ、っていつもの日常が帰って来たなあ、って思うんだよ。
平伏してる魔物の人達には悪いけど、そんなに永い時間ではないけど、そんな事を考えていた。
滝壺さん達、だから雨崎さん達も帰って来て、あの時、迷子な家族を探しに行ってた水島くん達も、探していたであろう家族、ああ、高橋さんの家族だね、大きい奥さんと、小さな娘さんを連れた高橋さん、平伏している人たちに混ざって、僕にお辞儀していいる。
よかったね、みんなで会えてさ。
って僕はそんな姿に手を振って答えると、そこから、小さな悪魔な花嫁さん的な、高橋さんの娘さんが、僕の方に近づいて来るんだよ。
普通に小走りに、こっち来る。
ツノに、首から下を鱗で覆われて、背中には、本当にその大きさの翼で飛べるの?って言うくらいの小さな羽、でも、そのドレスは素敵だね、って、僕の顔を見つめるその子に春夏さんは尋ねるんだ。
「こちら側の人になる?」
確かに、彼女の翼やツノって、こっちの世界では生活しづらそうだ。以前、悪魔の花嫁さんが札幌市街地のお買い物に関して、施設の中で、慣れるまでちょっと不便だったって言ってた。
まあ、僕は邪魔しちゃった訳だから、もしそれが希望なら応えなきゃって思ったんだよ。方法はともかくとして、此花さん達に相談かな? 数にもよるけど割と軽く考えている。
するとさ、彼女は首を横に振って、
「いいえ、私は自分の姿も、父様の姿も、母様の姿も好き」
って言うんだ。
そして、僕の顔をジッと見つめて、彼女は言うんだ。
「あなたも好きよ」
にっこり笑う顔はさ、どこにでもいる普通の少女の笑顔に見えたよ。
なんだ、やっぱり仲良くできるじゃん。
僕は思った。
そして小さな悪魔の花嫁さん的な彼女は、きっと道中、水島くんや百目さんに色々言われたのかなあ、って、だからこんな事を聞いて来た。
「世界を壊して、みんなを助けたのはあなたね」
って、そして1ミリだって、その視線を僕から離さない彼女は、僕に問いかける。
「あなたは、誰?」
そう単純に聞いて来るんだ、だから、名前をね、言おうとすると、それを聞かれたと思ったからさ。
でも彼女はその前にこう尋ねてきた。
「神様かしら? それとも魔王様? それとも、それを従えるとっても偉い私の知らない何かなのかしら?」
流石に、上級な悪魔の高橋さんの娘さんだけあって、僕の周りにいる人たちを見て、だから春夏さんとかアキシオンさんとか、摂理さんとか、桃井くんやら、角田さんを見てそんなふうに言うからさ、僕はちょっと考える。
自分の立場。
ううん、違うね、自分の存在。
いや、そんな大仰なものじゃない。
今の僕は何者なのかって話。
だから、そこは簡単に単純に答えるよ。
いつの間にか、静かになってる大通公園、僕は、僕を見上げてじっと待ってる、悪魔な花嫁な少女に、そして、この、大通公園を、僕を見つめる多くの魔物、いつの間にか再びダンジョンから出て来てるギルドの人達を見て、彼女に伝える。
「僕はね、ただの、ダンジョンウォーカーだよ」
うん、そう。
僕は北海道ダンジョンウォーカー。
今までも、今も、そしてこれからも、ずっとそうだよ。
ただの北海道ダンジョンウォーカーさ。