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北海道ダンジョンウォーカーズ(再up版)  作者: 青山 羊里
◆終章 異世界落下編◆
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第146話【北海道って言ったらさ……】

 何より、北海道ダンジョン自体がさ、人の不幸と言うか、子供の不幸を許さない方向に動くって事だって、何度も僕は目の当たりにして来たよ。


 どんな少数派だって、どんな危険思想でも、優しく受け止めて、全部、フォローしてくれてたんだ。


 だから、魔物の第二世代である異造子の人達も、異世界の強硬派からきちんと守っていたよね。


 そして、異造子達が北海道で暮らしていけるって事を見て、春夏さんは、このタイミングで動き出したんじゃないかな?


 異世界を北海道に溶け込ませる為に、この地に受け入れさせる為に。


 だから、僕自身が北海道ダンジョンを守る存在になるって、きっと早い段階から理解していたのかもしれない。


 ほら、僕って、ダンジョンウォーカーとして節操ないからさ、いい人だったら魔物も人も関係ないしさ、でもそれって、僕だけじゃなくて、今の人の価値観がそうなってるだけで、特にこのダンジョンがある北海道なら尚更だよね。


 普通の事。


 当たり前の事。


 だから、ダンジョンあってもいいんじゃないかな、ってなる。


 それを排除しない。


 だからと言ってベタベタと言うウエット感もなく、あっさりした道民性。


 特に誰かにリードされて来たってわけじゃない。


 土地柄だよ。


 きっと、この北海道の開拓の歴史からすると、この価値観は植え付けられたって言うより、かつての意識を呼び起こされたって言う方が正しいのかもしれない。


 僕らの先祖は、それほど遠くない過去に、北海道の極寒の地で、まだ道もまともに無かった頃から、方々から集まって来た様々な価値観の中で、それを統合なんてしている暇もないくらいに開拓して、獣害とかにも戦って、この地を切り開いて来たんだ。


 みんな仲良くなって、なんて言えないけど、今もその途中かもしれないけど、そこに異なる世界が増えたもいいじゃん。


 だから一つにならなくてもいい。


 人や魔物が違うのは違うので仕方ないじゃん。


 もし、その価値観で誰かが傷つくなら距離を取ろうよ。一旦離れて、方法を考えよう。ダンジョンが現れてからもそうして来たんだし、それがいいよ。


 互いに歩み寄らないのだって、仲良くやってく方法かもしれないし、北海道民は大体そんな感じ。だから、民族性の密な人たちからは冷たく感じるかもしれないかもだけど、みんな一緒だから、気にする事ないから。


 いや、むしろ、それがいいのかもしれない。


 だって、一つになってしまったら、僕は春夏さんに触れられないじゃん。


 手も繋げない。


 体に触ることもできない。


 だから前みたいにキスだってできないよ、春夏さん。


 今度は僕から行くから、って思ってたけど、それもできなくなってしまう。


 春夏さんだって、僕に触れられないし、声を出して、自分の声を相手の耳に届ける事だってできなくなる。


 せっかく違うんだから、それには絶対に意味はあると思うんだよ。


 もちろんその真意なんて僕にはわからないけどさ、でも少なくとも言えるのは、僕たちは違うからこそ、異なるからこそ、触れたいと思うし、触れるんだよ。


 あ、そっか。


 だから、違う僕らは出会う事ができたんだ。


 決して一つになれないからこそ、一つになる事に執着してしまうんだ。もうどうしようもなく、綺麗になんて言えないくらいにみっともなく、僕は春夏さんを求めてるんだ。


 それにさ、春夏さん、北海道好きでしょ?


 その春夏さんが北海道になっちゃったら、北海道を楽しめないじゃん。


 時計台は、時計台に観光に行かないし、納沙布岬になるのって、きっと寒いし、風強いし、誰も来なかったら寂しいと思う。藻岩山の夜景だって、裏なら寂しい限りだよ、果樹園の中に点在する住宅見て何が楽しいのさ、って思うじゃん。


 ほら、だんだん混ざるの馬鹿らしくなって来たんじゃない?


 ちょっと強気で攻める様に言う僕。


 一応は言葉に出してる筈なんだけど、伝わるかな? 全体的に聞こえてるかな?


 って意識を張り巡らした時に、いきなりやって来る既視感。


 そして、僕の鼻先に感じるのは、路面電車の匂いと言うか、独特の香り。


 だから僕は気がつくんだ。


 あの時もそうだ。


 春夏さん、僕と一緒に、一番最初にこの北海道ダンジョンに向かう時、僕は、すっかり忘れていた美人な春夏さんにドギマギして、前しか見てなかったけど、春夏さんは僕の方をずっと見てたよね。


 その時、そう感じた訳じゃなくて、正確に言うなら、あの時からずっと春夏さんは僕を見ていたんだ。


 だから、今、僕は、それを感じて思い出しているって事は、春夏さん、今も僕を見てる。


 意識がある。居ないフリしてる。隠れている春夏さんを感じる。


 確証も根拠もないけど、いる。わかる。そして、今、僕に気がつかれていることも春夏さんはわかってる。でも出て来た。そして見てる。


 そして、僕は二人並んで路面電車(100 系)に乗っていた時のことを思い出す。


 何を話そう、聞いてくれてる。


 でも、焦って言葉が出てこない。


 でも春夏さんに来て欲しい。

 

 スウっと、僕は息を飲んで、久しぶりい合う、母さんの親友の娘さんで、僕の幼なじみで、春夏姉の恩人で、何より僕にとっての掛け替えのない人を感じながら、整理しきれない頭で、漸く出した言葉。呪文の様に出てしまう最初の言葉。本当になんでこんな事を言おうとしていたんだろう? って言うどうでもいい言葉。


 あの時言えなかった言葉を綴るんだ。


 北海道って言えばさ、


 カニ。


 雪まつり。


 そして、『北海道ダンジョン』


 だから、君がいるんだよ。 

 


 

 

 

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