第142話【静流ぶん投げて、蒼さんぶん投げて、アキシオンさんぶん投げて、最後に靴を投げる】
大体さ、飛び込んたからって、春夏さんが、葉山の身体に入るなんてわからないし、その可能性だって低いじゃん。そうなるとは限らないじゃん。
葉山にしては確証性の低い事やろうとしてるのに本当に驚いてる。いつもは僕に向かって作戦を立てろだの、計画性を持てだの言ってる筈なのにさ、本当にびっくりする。
ともかく、二人をキャッチしてこのままだと、速度と質量の問題から完全に3人とも落ちちゃうから、この渦の中心範囲の落下から逃れられないかなあ、って思うから、僕は彼女たちを僕自身が飛んで来た勢いのまま投げ飛ばす。
「真壁!!!」
「お館様!!」
多分、これで今は安全範囲内へと飛んでいってくれる筈、着地は各々で頼むよ。
特に同じ勢いで投げた筈なんだけど、どう言うわけか蒼さんよりも遠くに向かう葉山……、いや静流に向かって言うんだ。
「静流はさ、僕が助けたんだ、だから勝手に死のうとかダメだからね、そんな願いは絶対に見逃さないから、邪魔するからね、僕は君がいなくなるのは許さないから」
って言ってやった。呼び捨てにしてやったのは、葉山って言ってもどうしてか葉山に響いてない感じがしていたんだ、特に最近。
だからなのかもしれないけど、僕の言葉を食い入る様に聞いている静流だよ。なんか効果あったみたいだ。すごい真剣に聞いてる。
いい感じで、飛んでゆく静流は、
「私も、秋って言うから、名前で言うから!」
って言いながら飛んで行く、そしてその後を追い切れないくらいの速度で飛んでる軽い方の蒼さんにも、
「蒼さんも一緒だからね、勝手な事しないで、君が僕を大切に思う様に、僕だって君が大切なんだ、怪我だって許せないくらいにね」
って言う。このくらい過保護な言い方しないと、本当にこの蒼さんは自分の身を平気で犠牲にする。
でももう大丈夫だよ、僕はみんなを同時に広範囲に守れる様になってるから。
僕の知らないところで僕の安全を守ってくれてる蒼さんを僕が守るよ。
「お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お館様!!!」
蒼さんには珍しく大きな叫び声がドップラー効果を伴って僕の狙った安全な、パンジーの花壇あたりまで飛んで行く。
よし、これでいい。
彼女達を投げ飛ばしたおかげで、僕の速度は完全に消失して、いい感じで、渦の真ん中にこれた。で今、絶賛落下中。
すると今度は、
「オーナー、このまま私をこの中心に打ち立ててください、分析解除します」
ってアキシオンさんが言い出すから、そのまま彼女、と言ってもいつの間にか剣になってるんだけど、そのアキシオンさんも、斬ってはダメなモードに切り替えて、
「アキシオンさん邪魔」
って言って、蒼さんと葉山と同じ方向にぶん投げる。
意識を僕の頭の中に残したまま、アキシオンさんが驚く様に叫ぶ。
「オーナー!! 何を!!」
いいから、もう余計な事しないでよ。
って言ってる側から、
「靴の裏には境界を造っています、そこから不可侵の世界を構築します」
なんて言うから、仕方なく落ちながら僕は靴を脱ぎ始める。そしてぶん投げる。
「摂理さんもいいよ、僕に何もしなくても、ってかむしろ何もしないで」
って言ったら、器用に中空に浮いていた摂理さんは、
「差し出がましい真似をしました」
って言うから、いや、むしろこっちこそ、善意を踏みにじる様な空気読めない事してごめんね、って気分になる。と言うか、このくらい奥ゆかしくなきゃあ、聞いた、静流に蒼さん、アキシオンさん?
って思って、それは言葉に出してはダメな奴だと、姑チックな奴かもって判断して、何も言わなかった。
最後に、アキシオンさんが、
「死ぬ気ですか? オーナー !!」
って珍しく叫んでるから、何を言ってるんだよ? って思って、僕はその思いの丈を口に出して言った。
「春夏さんが僕を殺すわけないじゃん」
だって、春夏さんだよ。
もちろん、この現状に置いて、今の段階で、僕にはなんの根拠も確証もない。
だから無抵抗に、あるがままに、自然の流れで、そのまま僕は、この大地の中に攪拌されてゆくダンジョンの中心に落ちて行った。
水みたいに、渦巻く地面にトプンって感じで落ちて行ったんだ。