第141話【そんなのダメに決まってるだろ!】
みんな、違って、能力と、姿とか、スキルとか特技とか主張とか、生き方とか、身長とか見た目とかがさ、違っていて、いや、むしろ違っていていいんじゃ無いかなって、そう思うんだ。
僕はここで始めて、春夏さんの考え、彼女の思考と解離したんだ。
これじゃあ、ダメだ。
春夏さんは優しいから、引っ込んでしまおうって、そう行動してる。
自己を無くす方向にいる。
そうか、だからこの犠牲なんだ。
自分の場所を開けて人に、言い方は悪いけど、それじゃあ侵略を許すって事に変わりがないんだよ。
僕は、僕として北海道ダンジョンを見て来たけど、たくさんの魔物や人に出会って来たけど、それは春夏さんも同じな筈で、でも、こうしてたどり着いた結論はこんなにも違う。
「真壁!」
何かが見えかけた時、急に声がかかるから、今、忙しい! って言おうとすると、急に僕の前をすぎて、振り向き側に、葉山が言うんだ。
「真壁、私、この体、春夏に返して来る!」
って言い出す。
え? 何を言ってるの?
意味不明な行動に、今、この時点で葉山の言葉に、かつて言っていた彼女の考えが交差する様に合致する。
「うわ! ばか!」
って言う前に、今度は蒼さんが駆け出し、葉山の後を追う様に僕の横を通り過ぎた。
そして、僕の顔を見て言うんだ。
「お館様、私も東雲にございます、この身をお役立てください!」
何を言ってるの? 蒼さんまで!
先の方では、「蒼ちゃん、一人でいいのよ、私の役目だから」って言う葉山に、「何を言う、元々東雲は多月と同じ家の者だ、ならばその役目は私こそがふさわしい」
とか言い出してる。
彼女たちは、今、ゆっくりと沈み始めている4丁目ゲートの中心になっている渦に飛び込む様に跳躍する。
「ああ、あれは消滅するな」
と黒の神様はのんびりと言う。
「もう、あの子は形を持たぬ、もう、誰の声も届かない、この大地に一つになろうとしているのだ」
と言ってから、
「お前の体の一部に残るあの子はな、今お前を止めているあの子も、自身の為に、自分に飛び込む様な真似はさせんぞ、だから体が動かぬだろ?」
と言うんだけど、あれ? 動くぞ?
体、動く。
普通に当たり前に動く。
え? なんでだろ?
いや、今はそんな事を考えてる場合じゃないだろ!
って思った瞬間には、その渦の中心に、今まさに飛び込もうとしている、葉山と蒼さんの背中をつかんでいた。
「真壁!」
「お館様!」
間に合った……、って思ってから、僕は気がついた。
そうか、今、僕、一瞬だけど春夏さんを忘れてたよ、ともかくこの子達を助けないとって、そう思ったんだ。
だから体が動いたんだね。
これがさ、もしも、葉山や蒼さんを利用して。この渦に近づこうって、彼女達をそのきっかけに、利用する作戦なら、きっと体は動かなかった。
そして、葉山でも蒼さんでも、どっちか一人でも、こうなる事を予想していたのなら、同じく僕の体は固定されたままだろう。
春夏さん、僕の頭に残していった春夏さんも、これは予想できなかったんだ。
掛け値なしに、葉山も蒼さんも自主的に僕のために命を賭けた。いや多分、死を望んだんだ。
僕の為に? 本当に信じられないよ。
僕は、いくら生き返れるからって、自分が死ぬのも、誰かが死ぬのもごめんなんだよ。
まして、このまま異世界が北海道主体で混ざりあったとして、最悪、魔法スキルも、奇跡もなくなってしまう可能性が大きい。いや、春夏さんが、北海道ダンジョンがなくなるんなら、そうなるに決まってる。
死んだら生き返れないんだぞ。
僕のてのなかにいる葉山は言う。
「だって……」
僕。きっと怒ってるんだ。きっとそんな表情をしてる。わかる、だって表情が堅いもの。で、そんな僕の顔を見ている葉山の表情も硬いから。
「好きな人には幸せになってもらいたいの」
って葉山が言う。
そして自分はどうなるって言うのさ?
自分の身を、葉山や蒼さんが命を投げ打って僕が幸せになるって考えがもうすでにおかしいよ。それトラウマになる奴だから、ザックリと深い傷を残して、結果的にみんな公平に不幸になる奴だから。