第128話【囁くのは最弱にして最初の魔法】
そして直径15センチほどのリング状の『物』が13個、と言うか、全く厚みがないので。13枚、黒い女の人と同じように、角田さんの周りを囲むように現れる。
それは時折回転しながら、角田さんの周りを漂っていた。
「これがあなたの請負頭?」
多分、黒い女の人の言うところの請負頭と同じものらしいんだけど、形状が全く角田さんのものは異なる。彼女のものがオカルチックな風貌だとしたら、角田さんのものはまるで、幾何学模様のようだ。
15センチのリングの中に5センチに満たない同じようなリングが5つ、絶え間無く動き回っていて、時折2つほど、外径のリングをはみ出している、その動きは独特で、まるで生き物みたいに見えなくもない、また機械的でもあるような不思議な形だ。
それを見た黒い女の人は、
「私の負けみたいね」
とあっさりと負けを認めた。
「14対13では私に勝ち目はないでしょ、それに、強そうな人たちもいるしね」
と、僕と春夏さんを見て言った。シリカさんは除外している、いい加減に扱いに慣れたみたいだ、やっぱり魔法のスキルを持っている人って頭がいいよね。
「いいや、言ったろ、圧倒的な力を誇示して、そのスキルに腐った脳みそを更生させてやるってな」
おお、角田さん、弱い者に容赦無くトドメを刺そうってのかな、すごいな血も涙もない。
「じゃあ、勝手にしなさいよ、好きにすればいいわ」
ってあくまで勝気な感じで黒い女の人は言う。負けたけど、これはまだ完全に負けは認めていないっていうか、13対14なら、そうだね、いい勝負だった感じで、角田さんの辛勝って感じは否めないもの、その気位の高さはちょっとだけ尊敬した。
「殺さないし、傷もつけないよ、だから抵抗してみろよ」
って角田さん。
「はあ?」
「俺が使うのは『ハリク』だ、ご存知、このダンジョンで最低最弱の魔法だよ」
そして続けて言った。
「さっきは焦ったよ、あんた、12の請負頭を呼び出すんだもんな、本当にびびったよ」
角田さんはゆっくりと金属バットを振り上げ、肩に担ぐような格好になる。
「おかげで、13212の請負頭に制動をかけて、中から13だけを発言させるのには、久しぶりに骨が折れた、最下層に行くんだったらせめて100か200は呼び出してくれ」
気が付いた時には、この鏡海の間を埋め尽くすように、リングが舞う。もうね、数なんて数えられない。
「え? あ?」
もう、自分の頭上にも舞飛ぶ無数の人の顔のようなリングにかこまれて黒い魔女の人、言葉にならない声を呟いていた。これはもうどうしようもないほどの力の差って奴。攻撃対象ですらない僕もびびっているから、この1万を超える導言が向かうこの黒い女の人の恐怖なんてとても計り知れないよ。
黒い女の人、完全に腰が抜けちゃってる。ぺたんと腰をおろしてしまったよ。もう導言なんて発言できえる状態じゃあないよ。
そして放たれた13212のハリクは、聞いたこともない音になって、まるで大きくて硬い金属の弦を弾いたかのような奇妙な音となって、全てがうなだれる彼女に向かって放たれて行った。
角田さんにとっては最初からワンサイドゲームだったんだな。
圧倒的って言葉を知る僕が、このダンジョンで初めて見た圧倒的な戦いだったよ。