第139話【消失を願う北海道ダンジョン】
そして、そんな感情と言うか気持ちを察する様に、ニコニコしてる黒神様。
いや、もう、まあ、いいや。
で、
「なんでさ? 春夏さんがなんでダンジョンを消失させる事を望むのさ?」
って、尋ねると、
「完全なる融和、融合を望むからだ」
と彼女は言った、ちょっとその顔に笑顔が消えて、どこか寂しそうに言う表情が僕を安心させた。そして、
「ここにダンジョンがあり続ける限り、世界の融合などは無い、今がそうだろ?」
って言われる。
「そんなの、北海道ダンジョンがあってもできるはずだよ」
って僕は言う。
だってそうだから、みんなで仲良くできるのはもう証明されてるもの。
大丈夫だよ、って言おうとして、
「でも!」
って言った瞬間い、黒神様は大きくそれを否定する様に首を横に振った。
そして、
「ここにダンジョンがあり続ける限り、人は人、魔物は魔物のままだ」
って言った。
ちょっと考えてみてから僕は思った事を言ってみる。
うん、びっくりしたんだ。
だって、今、魔物は魔物のままって言ったんだよ。
つまりさ、
「じゃあ、何? ダンジョンがなくなると、魔物も人になれるの?」
って聞くと、
「そうだ、そちら側の世界に寄るのだかから、その変化は瞬く間に現れる」
「じゃあ、ダンジョンがあったら、魔物は魔物、人は人なんだ」
「そうだ、それが世界が混ざると言う事だ、どちらを主体にするかは既に決まっている、もう止める事はできない」
と言ってから、黒いお母さんみたいな神様は言うんだよ。
「そして、それが春夏の願いでもある」
と言ってから、まるで空を見上げる様な、この北海道の大地を見渡す様に、
「春夏は北海道が大好きなのだ、だから、ここで、自分を溶いて、異世界全体を、北海道にしようとしている」
と言った。
僕は、ダンジョンを見た。
正確に言うなら4丁目ゲートを見つめた。
すると、黒神様は僕が何を考えているのかわかっているみたいで、
「飛び込むか? 今、まさに消えゆくダンジョンに……」
思いの外近くで声がするなあ、って思ったら本当に黒神様、僕の顔の横で喋ってた。
いつもの僕なら、そんな事判断する前に、動いてるんだよ。
だって、北海道ダンジョンが消えてしまおうとしてるんだから、春夏さんがいなくなろうとしてるんだから、これは一大事だよ。
いつもなら、そう思う前に駆け出してる僕は一歩も動けなかった。
「死ぬからな」
と黒神様は言うんだ。
「いや、僕は死なないよ」
って言うと、
「お前の持つ、その剣でも、そして、もう一人の奇跡の存在でも、そこに介入はできんぞ、消失に巻き混まれ、違う存在が砕け合い、命の形のあるお前一人で死ぬ事になる」
ゾッとするくらいの声で、僕の耳元で黒神様は呟いた。
そして、さらに絶望する様な事を言うんだ。
「動かないだろう? 足も、腕も、それはそうだ、なぜなら、あの子が最も忌むべき行為だ、止めるぞ、己が存在をかけて、全力でお前を止めるぞ」
黒神様の言うとおりだった。
だって、僕の足なんて、まるでボルトに固定されたみたいに動かない。
前に行こうとする体を完全に止めらている。
黒神様は言うんだ。
「違う存在の二人だ、共に砕けてしまう運命をあの子は許さない、お前がどんなに力を奮おうと、あの子は全力で止めにくる」
春夏さんは、僕が危険な事をするのを許してはくれない。
絶対に守る、その意思と行動が、今僕にとっても最大級に僕の行動の障害になっている。
彼女は言うんだ。
「私は、私として、地底に横たわる名もなき偉大な白き神を救うために行動を起こしたたい、しかし、この地に送り込む為のの褒美として、一つだけ願いを叶える事も約束した」
黒き母なる存在の神は、まるで悲しみと憂、そして、その優しさの前に言葉を一つだけ噤んだ。
「そして、それは今果たされようとしている、それは、北海道ダンジョンの消失を止めるなと言う事だ」
そう言ってから、黒き神様は僕の前を離れて、今はすっかし小さくなってしまって、空にも溶けそうな異世界を一瞥してから、
「それはお前の立場で言うなら、春夏の助け方を絶対に口にしてならないと言う事だ」
さすが春夏さんだよ。
この世界の為に、自分の異世界の為に、もう完璧に僕の行動を抑止する為の行動に出ているんだね。
嫌だ。
僕は春夏さんを失いたくはない。
あの日の思いを二度と感じたくない。
でも、だからと言って、方法が無い。
こんなの絶対に思いつかないよ。
空に小さくなってしまった異世界。
だから、空には日の光が戻って来ていて、ちょっと暖かいなあって、思う現実が、このまま手を拱いてみているしかないのかって思うと、もういてもたってもいられない僕だったよ。