第138話【黒き神は全てを慈しむ】
攻撃力マックスの優しさに包み込まれる様な暴力ににも似た慈しみを感じさせてしまう。
何もかもを許してくれそうな、そういう人。
うまく伝えられないけど、そんな存在がここにいきなり降り立ったのだ。
葉山も蒼さんも見惚れてるから、きっと僕と同じ感覚なんだと思う。
でも、僕はそんな気持ちなんて吹き飛んでいる。
いや、だって、北海道ダンジョンが無くなる?
しかも春夏さんがいなくなる?
そんな事を言われて冷静でいられるわけがない。
だから、
「さっきのって、どうにかならないんですか? 北海道ダンジョンがなくなってしまうって!」
と食ってかかってしまう。
すると、
すごい速さで、その慈愛に満ちた表情が僕の目の前に来る。
体が大きくて、きっと初代微水様の大きさの倍ちかくあるから、その顔だけでも僕の身長くらいはある。というか、急に小さくなって僕の顔の大きさに合わせる様な変化が見える。
でも、体の大きさは変わらないから、なんかバランスが悪い。
でも、まあ見た目の美人には変わりないんだけどね。
自由自在だな、この人。
そしてその顔は僕に言うんだ。
「あれは、私の分体であり、全ての生き物は私の子供の様なもの」
と言う。
ああ、そうなんだ、つまり春夏さんのお母さんって言いたのかな?
彼女は続ける。
「元々、私は、あれに、この地に私たちを受け入れる為の場所を確保せよと使命を持たせた」
そして彼女は、黒い女性はこうも言う。
深い、深いため息をついて言うんだ。
「しかしな、子供にも出来の悪いのと、良いものがいる」
彼女言い方に、僕は早とちりをして、ムッとしてしまう。
「じゃあ何? 春夏さんはできが悪い方って言いたいの?」
すると、この黒い人、にっこりと、今までの慈愛の表情じゃなくて、本当に自然に笑うんだ。
「違う、逆だ、お前の言う春夏は出来がいい、とても賢く聡明で良い子だ」
ってまるで自分の娘を褒められたお母さんみたいはそんな表情。ああ、ちょっと照れも入ってるな、勝手にそんな事を思う。
「できの悪いのはな、この地を自分達の物にしようとして、この地の至る所に攻め入ろうとした子供達だ」
と言う。
そして、
「お前の姉を殺したのも、そんなできの悪い子の一人だ」
って言うから、
「本当に迷惑したよ」
って言ってやった。それって、きっと葉山とかにも迷惑をかけた人も含まれているよね、だからちょっとムッとしたんだ。
そしたらさ、
「生き返らせてやったろ? 生き残っているだろ?」
って言う。同じ微笑みで、まるで僕がわがまま言ってる子供みたいに感じるから、もうさ、負ける物かって、感じで言い返すよ、と言うか、この会話事態もわがまま許してもらってる子供の言葉っていう感じがしないでもないけど、でも、言わずにはいられないんだ。すごい言いやすいしさ、うん、なんでも話して聞いてくれそう。
「いや、だったら、そんなのさ、あなたなら止められるでしょ? なんでほっといたのさ? 本当に大迷惑だよ!」
って気持ちをぶつけてみると、
黒いお母さんみたいな人は言うんだ。
「いい子も、悪い子も等しく私の子供だ、しかもみな、私の世界の為に行動してのことだ、何をいえるわけもない、優しい子供達だ」
って言うんだよ。
いや、子供って、できのいい悪いの範疇を超えてるよ、って言いたいけど、なんだろうなあ、この人にとってそれ以上それ以下もないのだろうなあ、って思うと何も言い返せない。
確かに、死んだ春夏姉も春夏さんのお陰で蘇ってるし、葉山だって、結論からするとこの北海道ダンジョンのお陰で生き長らえている。雨崎さんたちもそうだね、と言うか、本来は死んでる人もダンジョンの中で生きてるわけだし、そもそも、異世界案件でこっちで死んでしまって人たちは、みんな向こうの世界で転移や転生して生きて来たわけで、多少の時間差はあるけど、みんな異世界側に感謝してて、そしてこっちに戻って来たわけだから、僕がこの世界に来ていた魔物のことで怒るのはお角違いかって気持ちになるから、
「じゃあ、いいのかな?」
って悩んだ末に思わず聞いてしまう形になる。
「良い」
とハッキリときっかりと黒の人は言う。
そして僕をじっくりと見て、
「まさに、世界ここに極まった、良い子だ」
と僕にまで向かって褒めてくれる。
いや、もう、この人と言うか、きっと、向こうの世界は神様みたいな存在なのだろうけど、ディアボロスくんの言う所の『黒神様』から見たら僕もきっと子供の一人なんだろうなあ、って思う。慈愛の対象なんだと思う。
その黒き神様は言う。
闇の不安や恐れではなくて、闇に入る安心や安堵の声で、
「これは、あの子が望んだ事なのだ」
とそう黒神様は言うんだ。
僕は、その答えを、春夏さんの顔が出て来てさ、こっちも笑ってるからさ、ちょっと嬉しい僕なんだけど、でも、今はそれどころじゃなくて、って思うと消えてしまって、しまったって思った。