第127話【通常なダンジョンへ戻る僕等】
意識はそのまま、僕らは『厭世の奈落』にいた。
変わってるのは僕の隣に仮想奥さん、だから摂理さんがいる事くらい。
そのまま、尋ねる。
「もう、境界とかはないんだよね?」
頷く奥さん。その後に何か言葉が、追加で何か待つけど、そのままだから僕にとって、というか世界にとって不利な情報は無いみたい。
「なに見つめあってんのよ」
って葉山に言われるも、そんなつもりないから、でも、多分、彼女の存在ってほぼ僕の、僕すら統合できなかった理想なわけで、見てしまうと、綺麗だなあ、って思ってしまうのは仕方ないじゃん。綺麗な人を見て綺麗って思うのは当たり前のことでしょ、それはつまり、葉山とか見て、美人だって毎日思ってる僕を否定するってことになるよね。だから、蒼さんとかもだよ。
なんて言葉を端的に整理して言おうとしたら、
「ならいいわよ」
って葉山が言うから、蒼さんもとても満足気な顔してたから、きちんと僕の思考を読めてるなあって思って安心した。
いや安心できないのか? でも、元に戻ったって事で安心していいのかって思うけど、どっちだ?
そんな不安が脳裏を過ぎる瞬間に、
「ほら、早く、世界を一撃で撃ち壊すんでしょ?」
って葉山に言われる。
あの春夏さんが言っていた言葉を言われるからびっくりする。
「う、うん」
「そして春夏も取り戻すんでしょ?」
とも言われるから、うん、って頷く。
「じゃあ、もうひと頑張りだ、行くよ真壁」
って僕の手を引っ張って、外に出ようと誘う。
そして角田さんも桃井くんも、だからサーヤさんが来て、遅れて此花さん達も来る。
椿さんが、
「敵の気配が消えたわ? 何かした?」
って尋ねて来るから、
「うん、ごめん、ちょっと違う世界と言うか空間に行って話つけてた」
って言うと、角田さんが、
「秋さんはどこにも行ってなかったですよ、ずっとここにいましたが?」
って角田さんにしては珍しくちょっと不可思議な顔してた。
だからそこで僕は理解するんだ。
あの時間はなかったことになってる。と言うか時間を必要としなかったってことなんだ。
つまり、ここと、あの僕の家の仮想世界で過ごした時間はゼロってことになるんだな。
だから、ロスが無いって事で、今は緊急だから助かるよ。
って、摂理さんを見ると、完全に僕にだけむけた笑顔になる。
うわ、ちょっとドキッとしちゃったよ。
一応、確認しておく、
「もう敵ってのは出ないよね?」
って言うと、
「はい」
って二つ返事だった。
そんな僕らを見て、と、言うか摂理さんをジッと見て、椿さん、
「誰?」
ってちょっと怪訝な顔して言うんだ。
うーん、ちょっと説明が難しいなあ、時間もないし後で良い? って言おうとするんだけど、その前に葉山が、
「真壁の奥さんよ」
って言ったら、
「ああ、そうなんだ、よろしくね」
って言う椿さんだった。
いいんだ?、それでいいんだ?。そこは納得してしまうんだ?。
桃井くんも、ぺこりってお辞儀してサーヤさんもそれに習う。
角田さんに至っては、「いつの間に……、やりますね」とか言ってニヤリとしてるし、そこ以外の説明は求めては来ないからこっちが驚くよ。
そんな僕の納得いかない心情を汲み取る様に、桃井くんが、
「秋様の奥様なら、悪い人はいないですよ」
って言ってくれる。
まあ、そうだね、そうかもね。
とは思うものの、そんなザックリよりも荒い説明でいいのかな? って思うんだけど、
「それに、訳ありの、スキル持ちの、異能な人なんですよね、どうせ?」
とか言い出す。桃井くん、すごいいい笑顔で、絶対に黒い色の片鱗も見せないけど真っ黒な笑顔。
「大丈夫です、一度、秋様に取り込まれたなら、もう安心ですから、以前もそうでしたから」
と言葉を繋いで言った。