第126【シリカさんからの願い】
目の前には、凄い楽しそうな角田さんの笑顔。
もう、今、戦ってる相手なんて、全く眼中に無いって感じで、僕に色々説明してくれるんだよね。
「この女、第3位の雷撃系の魔法を持っているのは少し驚きましたね、いや大したもんですよ、俺が今まで出会った魔法使いの深階層にたどり着けるランク付けでいうなら中の下くらいは行ってます、確かにこの程度ならラミアを追い詰めるのに大人数がいる筈ですよ、この程度ですからね、相当大変だったんじゃないでしょうか」
ああ、そうか、角田さん、僕に言うって程を使って、全部、この黒い魔女の人に言っているんだ。すごいな角田さん、計算され尽くした底意地の悪さだよ。
そして、僕も手伝うことにした。
「じゃあ、この人は全然大したことないって事?」
「まあ、そうですね、俺に比べたらって事ですよ、防御魔法を掛けられてもなお、浅階層のダンジョンウォーカーに倒されるような雑魚集団の中なら、そりゃあ、すごいって事になるでしょうね、言ってみれば雑魚の中でしか輝けないタングステン電球くらいはすごいですよ」
わあ、このLED照明が主流のご時世に蛍光管すらでないんだ。
最近の照明器具事情を比喩った挑発に、黒い女の人は大きなため息をついて、まるで苛立ちを追い払らったかのように冷静さを取り戻す。
「面白い人たちね、確かに私と同じ魔法を使えるのは驚いたわ」
ああ、さっきまでの苛立ちが普通に戻ってしまったよ、ってか強いよ、この人、こう言う戦いに慣れている感じがした。
今僕らは浅階層だからわからないけど、深階層ともなると、ダンジョンウォーカー同士のこんな戦いも珍しくはないんだろうか? 嫌だなあ、僕としては誰とも仲良くやって行きたいだけなんだけどな。結構戦い慣れして言葉とかの駆け引きとかにこなれてる感じが更に確信を持てた。
こう言う人の強い精神を揺さぶるのって、多分難しい、特に感じるのは魔法のスキルを持っている人って冷静だよね、うちの角田さんにも言える事だと思うけど。
多分、だけど角田さんのやろうとしていたのは、この黒い女の人を散々挑発して、冷静さを欠いたところで最大の能力を発揮させた状態の鼻っ柱を何らかの方法で上手に折るって感じだったんだけど、その目論見は黒い女の人の意外な程の冷静さの前にもろくも崩れ去ってしまった。
すると、角田さんは、
「シリカ」
と声をかける。
「はい」
と、ラミアさんの影に隠れていたシリカさんが返事をして、
「この女に聞きたいことがあるんだろ?」
「はい、あります、とても大事な事です」
と言う。
「何かしら?」
シリカさん、この緊迫する空気の中、ラミアさんの庇護から離れて、ズイッと前にでる。
そして、極めて硬い表情で言う。
「正直に答えてください、嘘言わないでを望みます」
ここにきての、敵って言っていいんだよね、この黒い女の人。その敵に一体どんな質問だろうと僕も固唾を飲んで見守っている。すると、
「私、困っています、できないのは困りますので、ぜひあなたに訪ねたい」
シリカさんはそう言うと、カバンの中から、先程の夕張メロンピュアゼリーを取り出し、尋ねる。
「スプーン、持っていないですか?」
あ、黒い女の人、切れた。表情でわかる。ブチって感じで切れちゃったよ。
「ふざけるな!」
って、ああ、すごい、この冷静だった黒い女の人、ブチ切れちゃったよ。
完全に揶揄われたって、そう受け取ってしまったんだよね、無理もないよ、シリカさんの言い方や態度って、彼女を知らない人なら本当にイライラさせられるもんね。すごいよね天然。
「あうう、角田、怒られましたよ」
ってシュンとしているシリカさんに、
「じゃあ、謝っとけ」
って角田さんが言うんだけど、
「ああ、ごめんなさい、スプーンは言い過ぎました、ここは日本ですから、和を尊ぶと言う意味でも、箸でいいですよ、ご存知ですか? 割り箸は意外にエコなんですよ、リサイクルクルです」
てへ、って笑顔のシリカさん。これ同性にやられると、ブッチする人多いって話だよね。