第8話【不埒者どもに憤慨する王の思念】
突然、怒鳴りつけるような言葉を叩きつけてきた人たちは、僕らの前に立ち塞がる。
特に感じる身長差から、僕の視界を、そして太陽すら遮るように現れた。
人の壁みたい。
中でもひときわ背の高い人は…、あれ? この服ってかベンチウォーマー、どこかで見たことあるなあ、なんて思ってると、胸のマークが春夏さんと一緒だね。色がまるで違うからわからなかったよ。 春夏さんの知り合い???
僕らに声を掛けたと言うか怒鳴った人を中心に5人程度の人が、ここから先は通さないぞ、って意識がはっきり見える。
この人の流れ、ダンジョンウォーカーの皆さんが作り出す流れる人の川の中で、僕らはそこから顔を出した大きな岩のように、多くの人が行き交うその場所で、呼び止められたそこにとどまる。
僕らの目的地、4丁目ゲートは目と鼻の先なのに……。
誰??
ってのもあるし。
何??
ってのある。
ともかく、すごい険しい表情に、きつめの視線。
まごうことなく僕をにらみつけてる。
それでも、一瞬視線が落ちて、「チィッ!」って凄い大きい舌打ちをされる。
きっと、僕と春夏さんの手を、見た目に強く固く握られた二人の手を見て、あからさまに不機嫌になってる。
違うんだ。固く握り合ってるのは、僕が手から力を抜くとそのまま春夏さんに握り潰されてしまいそうな勢いで握ってくるからなんだ。だから、こっちとしても、割と必死なんだ。
それと、この人並みの中で留まるのも迷惑だし、ほら、みんなよけてくれてるけど、こんなところで止まるなよって顔してる。
「やめてください、もう話はついてるはずです」
とかなんとか、僕が回りの人を気にしている間に、その大きな背の人と、春夏さんは何かを言い合ってた。
こんなところで話すのは迷惑だよなあ、って、だから僕は、ちょっと道路側の人の薄くなっているところに移動しようと春夏さんも一緒にね、そのまま彼女の手を引いたんだ。
他の人の迷惑になってしまうってのもあるけど、概ね危ないから。
特にプレートメールの人にぶつかってしまったら怪我してしまうよ。
そしたらさ、
「春夏に気安く……、手なんかつなぎやがって!!!」
って、その身長に似合った歩幅で一気に近づいてきて、僕の、春夏さんとつないでる手を強引に引き離そうとするんだよ。
もうそりゃあ、思いっ切りって感じ。
全く手加減とかないでやんの。
バン!!って感じで力づくって感じ。
僕の手首を叩いてきた。
僕の手を握る春夏さんの力は思いの他強くて、なにより、彼女の『絶対に離さない!』っていう断固たる意識が伝わってきて、どうしてか僕もその思いは同じで、この手は絶対に離してはいけないって、そう思ったんだ。どうしてかそう思ったんだ。
だから、そのイケメンな人に叩かれた僕の手は春夏さんから離れることなくその衝撃を十二分に受けてしまう。
「痛て!」
って、声も出したし、腹も立ってきた。
だから、流石の僕もこの時ばかりは怒鳴り返してやろうって思って、奴の顔を見て、
「秋くんになにをするの!」
って、先を越されてしまう。僕がその感情をあらわにする前に、春夏さんが、今までの彼女のイメージなんて払拭する、上品でどこか物憂げで、綺麗な顔なんて想像もつかない怒りに満ちた表情と大声で怒鳴りつける。
そして、一瞬、そのニヒルでイケメンで長身な乱暴者はたじろぐんだ。
春夏さんの言葉に反応したみたい。まあ、僕にはね迫力なんてものはありはしないから。
全くだよ、って思う僕はその時、その瞬間、変な違和感を感じたんだ。
僕はその時、僕の怒りというより、彼女の怒り、憤りにその感情を引っ張られたような、不思議な感覚。
心とかじゃなくて、頭の中に春夏さんの今の感情である怒り、伝わるではなく、発生してくる。
それはまるで直接なんかじゃなくて、互いに違う器に入った溶媒が、異なる振動を受けて尚その周波がシンクロしてしまうみたいな不思議な感覚で感情で振動。
僕は一体何に対して怒って、今の状態をどうしたいのか、まったくわからないでいるけど、ここにある意識というか僕の頭の中に発生した思念は、
ただひたすら、「侵略」って一言だった。
それは、自分というテリトリーへの侵入を意味して、同時にその排除という結論にたどり着いていた。
だから僕の取るべき行動は、その意識への決定は単純で、『排除』ってたった一の行動へと、僕の体や意識は行動を開始する。
うん、普通にそうなる。至極当然の如くそうなる。
だって、僕の『国』を荒らす不埒ものだよ? 『王』としての行動なんて最初から決まってる。
????? なんだろう、これ?
って自分で思う、考えるも理解不能な意識が、次々と心の底から出て来る。
いいや、違うな、これ吹き出しているな。
なんだ?国って? 誰が王だって?
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