第118話【どこかにありそうでありえない未来】
いや、だってさ、この薫子さんは、一応ギルドでは『お姫様』って呼ばれて、この日常生活に支障をきたす程の緩い生活ぶりとか見せたら、そんな風に期待とか羨望の眼差しで見て来る人達に申し訳なくてさ、毎日母さんとか葉山に注意されてたんだけど、ここではいないから僕が言ったよ。
「うるさいな、洗ったし、磨いた、いつもはギルドでしてるんだからいちいち言うなよ!」
っていつもの返事が返って来る。
そんな薫子さんが玄関の扉を開けて、僕と一緒に外に出ると、家の前で、葉山と蒼さんに出待ちされていた。
「ちょっと、真壁! どう言う事よ!」
って葉山に言われるけど、それはここにいるみんなが思ってる事だよ。
「お館様……」
って、蒼さんの方は今にも泣きそうな感じで、なぜかその後ろには知らない男性がい
る。普通の成人男性。
そして、葉山の後ろにも知らない普通の成人男性がいるんだけど、スラッとしたイケメン風な感じの人、と言うか葉山と蒼さんで一対一でいる。しかもどう言うわけかエプロン姿で、片手には同じ様にオタマを持ってる。専業主夫って奴なのだろうか?
そんな葉山と蒼さんの後ろの男性をマジマジと見ながら、
「誰?」
って聞くと、
「私たちの旦那だそうよ」
って言うんだよね、だよね、だと思った。
よく見ると葉山もスーツ姿だし、蒼さんもそうだね。
で、なんでその姿でそれぞれ武器を持ってるんだろう?
すると、葉山は本当に嫌悪感を抱くってか、その顔は最悪って状態を表している感じで、
「もう嫌だ、ここ、壊して元に戻りたい」
って、本当に珍しく今にも泣きそな顔して言うんだよね、そんな葉山の悲しみに寄り添うおうと、葉山の旦那さんみたいな人が、葉山に近づいてそっと肩に手を置こうとするんだけど、葉山は体を捻って、その手を払って完全に拒否。
「触らないで!」
って本気で怒ってる。
そんな葉山に比べて、蒼さんは、
「お館様、これは一体どう言う事なのでしょう?」
って冷静に尋ねて来る。
もちろん僕が知ってる訳がないからさ、
「いやあ、なんだろうね?」
って、僕自身も持ってる疑問を答えるにとどまる。
それでもアキシオンさんは何も言ってきてないからさ、この無反応ぶりはきっと危険はないかって事だとは思うんだ。以前みたいに、此花さん達みたいに関係性を絶たれているわけでもないから、多分大丈夫だと思う。
「本当に最悪、夢でも真壁以外の人と結婚なんて考えられない」
って怒ってる葉山、そして僕を見て、
「真壁も私達以外の人と結婚なんてしてないでしょうね?」
って言うからさ、ここはきっちりと否定しておこうかなって、いつの間にかいなくなってるけど、この廊下の先に、きっと僕の奥さんいるけど、肯定するとめんどくさい事になるからさ、と言う思考に、一瞬僕は、二股かけてる男性の心情ってこんな感じかな、って事をびっくりする。思って直ちに自分とか無縁な物だとその思考を霧散させる。しかも既婚者だからさ、今のこの僕はさ、そんな事を思ってはダメだ、って自分の考えに嫌悪してしまう。
だから、
「い、いやあ……」
って否定してんだか、肯定してんだかって適当な答えを言ってしまって、
「何よ! いるの? ちょっと連れてきなさいよ!」
って、ションボリしていた葉山が俄然と臨戦態勢になってびっくりする。
そして、
「蒼ちゃんも文句の一つでも言ってあげましょうよ!」
って蒼さんを巻き込もうとするから始末に困る。
「そうだな、私のお館様を勝手に自分のお館様にするのには問題がある、ここはきちんとしなければならない、我町の掟ではこの場合は両者の同意無しに殺傷も許されるのだ」
とか、蒼さんには、珍しく鼻息も荒く言い出す。
「いや、ちょっとやめてよみんな」
って言うんだけど、ここは一つ落ち着こうよ、って提案するんだけど、
「いいの真壁は? このまま進んだら、私達、不倫関係になっちゃうのよ? 許されない行為だよ、二人の燃え上がる気持ちのために、堰き止められない愛情の末に、二つの家庭を壊してしまう、いいえ、もっと沢山の人に迷惑をかけてまで、私との愛を貫くって覚悟なの真壁は?」
って言い出す。
何を言ってるんだろう? ってなる。