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北海道ダンジョンウォーカーズ(再up版)  作者: 青山 羊里
◆終章 異世界落下編◆
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第116話【大丈夫、平気、もう言わないから】

 「みんな落ち着け、今更、秋さんの常識について、どうこう言っても始まらないだろ?  トイプードルの嗅覚だって人間の1000000倍以上あるんだ」


 そう角田さんは言った。


 「トイプードルは喋らないでしょ、一緒にしないで」


 って葉山が冷静に言う。底冷えするくらいのトーンで言う。


 「それに、肌の質感とか、体重の変化とか見てわかるって言うのは、どう捉えていいのか……」


 珍しく葉山が答えも見出せずに困った顔をしていると、


 「蚊は、目標にしている人間の健康状態を感知して、より栄養価の高い血液を狙って来るんだ、秋さんもそれと似た様な物だろ?」


 それでも納得がいかないって顔している葉山と蒼さんに対して、角田さんは、


 「つまりだ、犬の嗅覚や蚊の感覚器官、秋さんの習性に今更おどろいても仕方ないだろ? そう言う生き物なんだから、こちらが受け入れるしかないぞ」


 って言われる。きっと僕を擁護して言ってくれてる言葉だと思うけど、犬の方はともかく蚊と同列に扱割れるのってどうなんだろう?


 そして、今度は桃井くんが、


 「秋様だって、他の女子にしているわけではないのですから、ここにいる気を許せう奥方達だけ特別な事ですから、そんなに気を使う必要はないですよ」


 って言ってくれる。ここにいる全員の女子に向かって、シレッと奥方っていう言い方が気になるけど、一応は擁護してくれてるみたい、角田さんよりは大分マシなフォローに聞こえる。


 そして、


 「何より、この野生動物も裸足で逃げ出す感覚を使って、皆さんの健康状態や不満や不安を察知していた事を考えると、まるで主人のご機嫌を取る小動物の様にかわいい物だと思いませんか?」 


 って言うんだよね。なんか畳み掛けるみたいに言う。


 「秋様も、口が滑ってしまった様ですから、今後は注意させますから、今回は聞かなかったことにしましょう、普段と同じですよ、なにも変わりませんよ」


 今ここで気がついたけど、これ、多分、桃井くんのスキルだよ。


 空間というか、空気が違ってる。まとわりつく様な、そんな感覚が僕の周りに優しく広がってるからここで気がついた。


 それでも、薫子さんは、さっきの仕返しって感じで、ちょっと嫌な顔して、


 「こいつの非常識なんぞ、今に始まった事ではないだろう? 今更、変人じみた特性があったとしても、何を驚く必要がある」


 って言うんだよね。


 ニヤニヤしながらさ、


 「まあ、私には嗅がれて困る様な匂いなどないけどな」


 とか言い出す。勝ち誇った様に言い出す。


 だからさ、これもいい機会だなあって思ったから、


 「いや、薫子さん、ギルドの仕事で疲れて、そのまま寝入って帰った朝なんて、日陰で半分埋まった小石をひっくり返した時みたいな匂いしてるよ、多分、口臭だよ、ちゃんと歯を磨いて寝なきゃ」


 って言い切ると同時に、無言のまま思いっきり斬りかかって来たよ。護りの剣で一刀両断にされそうになったよ。


 「真壁、そう言う事を言ってはダメでしょ?」


 って葉山に言われるんだけど、


 「そう言うの知ってても言わなのがエチケットよ」


 って同情っぽい目をして薫子さんを見てから、


 「私は平気だよ薫子」


 って言うんだよね。いいから、この白梟の大剣おろしてよ、ギリギリと押し付けるのやめて。


 もう、それって、気がついてった事じゃん。それをあえて言わないでいことで優しさを示していたってことじゃん。


 それでも、同性に言われた方がダメージは少ないかなあ、でも、薫子さんだってもう家族みたいな物だし。って蒼さん、僕に向かって息を吹きかけないで、匂わないから、蒼さんの息はきちんとブレスケアできてるから、って思うと、今度は葉山まで、「私はどう? 臭くないよね?」って何これ、なんで僕みんなの生温かなブレスを浴びてるの?


 本当に、いつもうこうなる。


 結局、覚悟を決めて、最後のダンジョンに挑んで、行き止まりに達ても、ワイワイガヤガヤで、力なんて抜けて来る。いい感じな温度になる。


 それを言えば、みんなそうだよね。


 こういう生活がずっと続くって、そう思ってる僕は、今の生活の事を随分と気に入っているんだなあ、って、そうんな風に考えていた。


 だからさ、もうこれでいいじゃん。


 これでお終いでいい。


 全部、ここで、終点でいいや、って、僕は僕の中からそんな風に心の底から思うんだ。


 自然に、なすがまま、当たり前の、平穏な毎日。


 だから、僕は、不自然なくらいな幸福感に包まれていたんだよ。


 それはもう、疑いようもない。そんな優しい光がそこには満ちていたんだ。

 

 

 


 

 


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