第111話【クマを狩りに行ったよなあ……】
そんな蒼さんに、正々堂々と言う蒼さんに向かって、葉山は大きなため息を一つ付いて、
「それって、蒼さんの家、蒼さんの町全体に言える事だよね」
って言い出す。
「それは多紫町の事か」
あ、蒼さんの感情が、と言うか雰囲気そのものが変わった。と言うかシフトを変えた感じ。
「この際だから言わせてもらうけど、蒼さんの実家も含めて、男の人に甘すぎるんじゃない? まるで可愛い犬や猫に愛情を傾けるみたいにさ」
って言い出す。
そして、珍しく感情を顕にする蒼さん、顔が真っ赤だ。
「何を言う、我町を愚弄するつもりか?」
「だって、そうでしょ? もちろん、それが悪いなんて言わない、蒼さんの町で蒼さんの実家の事なのだから、みんな幸せそうだったし」
って前置きをしてから、
「でも、だからと言って、真壁を同じ様に扱わないで、甘やかさないて、って言ってるの!」
「私が気を使ったところで、お館様はスポイルされる様ような方ではない」
そうだよ、そう、ところでスポイルって何?
「つまり手を加えすぎて、その性能そのものを低下させてしまう様な事を言ってます、今の現状を考えると、きっとそう言う意味だと思います」
って桃井くんが教えてくれる。なるほどそうね。そう言うことね。
そして、葉山は蒼さんに言い返されても、何を感じることもなく、まるで呆れる様な表情から、
「今日花さんを見てよ」
と言い放つ。
「真壁のこのバカみたいな戦闘力だって、あの今日花さんの計画的な教育の賜物でしょ?」
事実なので、これには言葉も出ない蒼さん他みんなだった。
確かにね、そうかもね、って一瞬思う僕だったけど、そうかなあ、ってすぐに思い返すに至る。
いや、ほら、僕もさ、つい最近、一応というか出会い頭の事故っていうか弟子を持つに至ったじゃない。
で、そのことに付いて、思うんだよ。
何をって、つまりさ、僕の育成について、母さん無茶したなあ、って、よく僕もこの歳まで生きてこれたなあ、って思い返すんだよ。
ほら、特に剣の扱いについて、袈裟斬りと突きの反復演練をほとんど半年やらされた後、ヒグマに対峙したのは僕がたった4歳の頃で、でも、僕はその時、実戦と称されて、剣を持たされ、札幌近郊の山に放り出されて、もうあたりは暗くなるわ、変な動物の泣き声は聞こえてくるわで、そんな状態で体長3mのヒグマに遭遇した時のあの安心感。
もう、ヒグマの奴は殺気満々でさ、普通に襲いかかって来るんだよ。
でも僕としては、『なんだ、相手は母さんじゃないんだ』って素で思うんだよ。
だって、早くないしし、攻撃レンジ短いし、何より一撃必殺も無いし、所詮は動物じゃん、森の熊さんじゃん、って思ったら、体から緊張も抜けて、あれだけ怖かった山林の闇も見通せる様になって、落ち着けて、刺して斬ってを繰り返すうちにどんどん熊は動きが遅くなって、逃げようってするから回り込んで、また斬って刺してを繰り返す。
後で聞いた話だけど、その時の熊って、どうも何度か人を襲った事があるみたいで、ハンターさんが探していたんだって。
大事には至らなかったけど、積極的に人を襲う事を覚えた熊は殺処分が決まっていて、遅かれ早かれ殺される運命だったらしい。
今なら一撃で倒せるクマもさ、包丁に毛のはえた程度の刃物で、しかも、いかに訓練されたって言っても当時の僕の子供の力じゃ殺しきれなくてさ、それでもその分厚い毛皮の隙間を縫う事にコツを掴んだ僕は、確実に熊の体を刻んでいったんだよ。
もうね、熊も最後には動けなくって、でも、一気に止めも刺しきれない僕は、ちょっと途方にくれてたんだけど、首を一気に跳ねてしまえって思ったんだ。
あれ? なんで、あの時の僕、アキシオンさんを持っているんだろ? 記憶がちぐはぐになってるなあ、ってちょっと改竄はやめて、って思う僕なんだけど、もしかしたら、ここまで刻んでおいて言うのもなんだけど、この熊もかわいそうになあ、なんて思ってたかも知れない。