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北海道ダンジョンウォーカーズ(再up版)  作者: 青山 羊里
◆終章 異世界落下編◆
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第109話【誰も、剣だけスゴイなんて言ってないじゃん】

 その後、角田さんに「ほら! しっかりしろ!」「このくらいの敵で情けねーな」「鍛え方が足りん」とか言われがなら、徐々に回復して行く薫子さんだけど、そんな叱咤にも近い、三柱神である角田さんの言葉に辛そうに笑いながら、「すいません」とか言う薫子さんに対して、「謝ることないわよ」とか「もっと優しい言葉をかけてあげてください!」とか、間に入ろうとする葉山だよ、その度に、「ありがとうな静流」とか、「心配かけてすまない」なんて言葉をこぼして、ほんの数分後には、すっかり元気を取り戻している薫子さんだった。


 「心配かけた」


 って僕のところまで来て、わざわざ言うから、


 「元気になってよかったよ」


 って言ったら、


 薫子さんは自分の守っていた扉を見て、


 「ここを守れさえすれば、なんとかなるって、思えた、いや、誰かに囁かれたのかもしれないな」


 って、どこを見るわけでも無く全体的にダンジョンを見渡して、そんな事を言った。


 それにしても、すごい数のデイモンとか、亜人系の魔物の死体と言うか残骸。


 普通、ダンジョンの敵なら、概ね数えられないくらいしかいないエルダー級以上以外は、みんな灰の様に霧散して消える。


 だから、やっぱりこのダンジョンの理とは違う魔物って事なんだな。


 それにしても無茶するなあ、って思って、いつもの薫子さんじゃないみたいな獅子奮迅の戦いを繰り広げていたんだろうね。


 薫子さんと言えば、前の麻生さんみたいに、隊で戦う人ってイメージもあったけど、最近なら、それも昔の話なんだろうなあ、とは思う、それでもさ、


 「ギルドの人に応援を頼めばよかったのに」


 って言うと、薫子さん、


 「この剣と自分と、今までお前の家にお世話になって、今日花様との毎日についての意味を、ここに見出せたんだ、なら私の出番だろ?」


 と言うんだよね。例の白梟の大剣『白護輝鴟梟初ノ太刀』、彼女が、かつて多紫町で19代目微水様にコンビニでバイトするって対価で造ってもらった白くて綺麗な大剣。


 母さんは、『護りの剣』だと言っていた。


 曰く、引いて戦う剣。でも背に守るものを見出した時にその真価は発揮するって言ってた。


 そして、薫子さんに誂えた様な剣とも言ってた。


 アキシオンを持つ僕が言うのも変だけど、ここまで自分に合う剣を持つのって普通はないからさ、ましてオーダーメイドだとしてもさ、どこかに、必ずと言っていいほど、人と剣って隙間は生まれるんだよ。その剣に意識でもない限り、例え僅かでもその隙間ってのを埋めるのは難しくて、だから、癖のある剣だとか、って諦めるのが大抵なんだ。


 でも、それがないんだよね、薫子さんの白梟。


 19代目微水の技巧の凄さがうかがえるよ。コンビニの店長を天職だとか言ってる人だし、剣を打つ事も少ない人だけど、造ったら造ったで、すごいの造るなあって、だから町の人たちも特に何も言わず、そんな19代目微水を知るからこそ自由にさせてるのかなあ、なんて思ったよ。


 きっと人を見て剣を造る人なんだなあ、って、数を打たないではなくて数を打たない人だったんだ、って今更ながらそう思ったよ。


 なんのかんの言っても、強くなったああ、って思う僕は、


 「よかったね、凄い剣をもらってさ」


 って言ったら、


 「凄いのは剣だけじゃないからな」


 って言い出す、薫子さんだよ。


 ああ、そうか、以前もこんな会話したなあ、って思い出して、ここは余計な事を言わないでおこうって思うからさ、黙って微笑んでいると、


 「ほら、またそう思ってる、凄いのは剣だけって、思ってる!」


 って薫子さんが言うんだけど、余計な事言ってまた誤解されるのは嫌だから、今日は僕、何も言わないよ。


 「なんだよ、言いたけれ言えばいいだろ!」


 って憤慨し出す薫子さんだよ。


 大丈夫、わかってるから、そうだね、僕もそう思うよ。


 「なんだよ、その不気味な笑顔は!」


 いきなり掴みかかられたよ。


 いや、本当に凄いなあ、って思ってるから、疑うべきもなく立派だって思ってるから、どうせ薫子さんだって、僕の心を読めるんだから、読むといいよ。


 凄いなあ、立派になったなあ、強い強い。


 「嘘をつくな! そんな事思ってやしないくせに!」


 ってガクンガクンと僕を揺さぶる薫子さんだよ。


 いやあ、もう、言ってもダメ、黙ってもダメ、じゃあどうすればいいのさ?


 そろそろ僕から薫子さんを剥がしてくれないかなあ、って期待しつつ、メンツも揃った事だし、誰が待ってるかわからないけど、薫子さんの守ってくれた扉を開けようかな。


 「どうしてお前はそうやって人の心を炙る様に弄ぶのだ?」


 って今にも泣きそうな薫子さんに問われるけど、そんな憶えないし。


 なんでそんなに疑うのさ、って僕が言いたい。


 もうちょっと薫子さんの荒ぶる感情が落ち着いたら、行くよみんな。


 喋ったら、薫子さんの揺さぶりで舌を噛みそうになるから、心の中でそっと呟く僕だったよ。

 

 

 

 

 

 

    


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