第125話【魔法スキル対決】
もう、ニヤニヤが止まらない角田さん。
「仕方ないですね、ここは俺が、人肌脱いで、こいつを更生させてみますよ、かなりの差がありますから、こいつが死なない様にしないといけませんけどね」
って言って笑う顔はまるで邪神のそれの様に見える。
うん、もう、なんか意地悪とかいう次元ではないんだよね。明らかに勘違いしてる格下相手をバカにしてる感じ?
僕、いままで角田さんて、基本的にはヤンキーな見た目で、オラオラな感じな人なんだけど、僕に対しては優しいし、シリカさんにもさ、口ではなんのかんの言っても面倒見てるし、なんだ、ただの良い人か、って思ってたけど、今の角田さん、本気で楽しそうなんだよね。
もう、底意地の悪さが大爆発してる感じ?
こうしてる今も、その漆黒な魔法使いのお姉さんの心配してるようなセリフをポンポン吐いてる。
いやあ、それ普通に挑発じゃんって思って黒い女の人を見ると、頬の筋肉がピクピクしている。
「へえ、圧倒的な力の差って奴を見せてくれるんだ?」
すごい声が上ずってる。怒ってるよ、この人かなり怒り高ぶっているよ。
「ああ、お前運がいいよ、よかったな、更生させてやるよ」
角田さん、全く容赦のない挑発だよ。
確かに角田さんは只者ではないのはわかるけど、相手は深階層まで行って、大人数だったとはいえ、ラミアさんでエルダー級のモンスターを追い詰めてしまえる人だよ。
確かに今の現状は数の上での有利は僕らの方にあるし、角田さんがこの黒い女の人よりは強いかもだけど、圧倒的な力の差っていうのは流石に言いすぎじゃあないかって思うんだよね。
そんな僕の心配をよそに、角田さんと、黒い女の人の戦いは静かに始まってしまった。
彼女は直立不動のままスッと手を伸ばしすと黒いローブからのびたその手にはペンダントのようなもの、独特のアンクが刻まれているロケットのついた長い鎖が巻かれている。角田さんの金属バッドみたいなものらしい。つまり魔法使いで言うところの杖だね。
そして呟いた。
「アラウド」
「アラウド」
2人はほぼ同時にこの言葉を呟く。違っているのは表情で、黒い女の人の顔は驚いていた、角田さんはニヤニヤしている。
「ジク・アラウド!」
「ジク・アラウド」
今度は黒い女の人、叫ぶように言葉を発するんだけど、対して静かに呟く角田さんの言葉。
何も起きない。
一体、どんな戦い?
普通に派手に魔法を打ち合う戦いを想像していたんだけど、全く予想と違って、一体何か起こっているのか自体を把握できない僕がいる。
互いが放った導言の後に、角田さんはニヤリって笑って、雷撃系の得意なお姉さんは、若干驚いている様だった。
「秋さんは魔法スキル同士の戦いって見るのは初めてですよね?」
頷く僕。
「魔法は、スキルを持つ者の『導言』を『発言』することによって発生します、長い詠唱とかその他の段取りとかは必要ないんです」
それは知ってる。呪文とか必要ないんだよね、中には詠唱する人もいるけど、それは気の持ち方っていう話を度々聞く。
「で、この同型同種のスキルは、同じ『導言』で打ち消すことができるんですよ」
「じゃあ、僕も同じ言葉で魔法を止められるってこと?」
「いや、あくまで使える人間が発言してこその導言ですから、使えないと意味がないですよ、それと発言はお互いに見えますから、相手が使用する魔法はこちらもわかるし、相手もわかるんですよ、これは魔法スキルの上位下位に関係ないんです」
そういうことらしい。使える魔法スキルの人が言わないと打ち消さないって事らしい。大事なことだから2回考え反芻して覚えておこう。
て言うことは、角田さんも使えるんだ、雷撃系。
さっきも思ったことだけど、もう、魔法に関しては角田さんがいれば、どんな問題も解決だよなあ、なんて考えてる僕なんだけど、魔法スキルの戦いって、そんなに単純なものでもなかったんだ。
複雑にして、制約が多くて、この賢い戦闘、いや規模的にはもう戦争って言っていいかもだけど、その本領を僕はこの後直ぐに知ることになるんだ。
本当にすごいね、魔法スキル。
僕なんて想像もできない戦いが始まっていたんだ。
導言の言い合いの戦い。
角田さんと魔法使いの黒いお姉さんの口だけ動いてる、きっと僕が思うよりも、壮絶な戦いなんだと思う。
えー、っと。
こういう戦い、確か名前とかあったよなあ。
あ、お思いだした。
これ、口喧嘩だよ。
もうね、まんま口喧嘩。
的確に、適当な言葉を見つけて、喜ぶ僕。
そんな僕を春夏さんは優しく微笑んで見守ってくれていた。
シリカさんは、相変わらずスプーンを探してる。いよいよ服を脱ぎだしそうになって春夏さんに止められてた。
ラミアさんはちょっと元気になってた。少しは自然回復したみたい。
目の前には、凄い魔法スキル同士の戦いなんだけど、声が響くだけのこの広い『鏡界の海』の中、リラックスできてしまう僕だったよ。