第103話【此花さんたちの明るい家族計画】
すると、いつに間にか後ろに来てた桃井くんが言い出すんだよ。
「秋様、ハリネズミのジレンマってご存知ですか?」
って言い出す。
「あれでしょ? 近寄りたいけど互いの針で傷つけてしまうって、言う苦境って言うか境地な感じのアレだよね?」
って言ったら、
「違いますよ」
って言ってから、
「互いの針が皮膚を突き破り肉に刺さるその痛みこそ、愛そのものではないでしょうか? 愛する人の体に突き立てる針、そして自分に刺さる愛する人の針、流れる血を、皮膚を這うその血液の温みこそ、愛そのものなんです、互いを傷付け合えない愛なんて本当の愛ではありませんよ、秋様」
って顔は見えないけどドヤ顔で言ってるのがわかる。もちろん、桃井君は特殊な性癖じゃなかった、常識の持ち主だから、それは参考にするまでもなく、右から左の僕なんだけどさ、
「つまり、あれだな、桃井の言いたいのは、ピアスの穴って、ピアスを目的にしなけりゃ、ただの貫通傷って事だな」
って、これもまたいつの間にかきていた角田さんが賛同してるから、この辺の意見は聞かなくても良いって事だね。
で、椿さんが、
「わかった?」
って聞いて来るから、更にびっくりする僕だけど、一体、彼らの話の何をどう理解したら良いかさっぱりな僕だけど、椿さんは言うんだ。
「だからね、私も、あなたに牡丹同様に好きになってもらわないとダメなのよ、流石に好きでもない相手ってわけにはいかないでしょ?」
ああ、よかった、まだこっちの方が常識的だよね、結構危ういけど。牡丹さんと僕はそんな関係じゃないけど、話としては聴ける。理解も、全部は無理だけど半分くらいはできる。
「だからね、私は命がけで、あなたの愛する人を取り戻す為に頑張ったの、自分の危険も顧みずによ、すごいよね私達、もう感謝だよね」
って言うから、まあ、その辺はって確かにって思う僕なんだけど、その後の椿さんが、
「ね、惚れてしまったでしょ? いいのよ、遠慮しなくて、好きになって構わないから、これは当然の流れでしょ? この過程を踏む事で全てが自然になるの、だからほら、子供とか作れる心境にも繋がって行くのよ」
って言い出す。前半の方はわかるけど後半の言葉がさっぱり理解できない。
まるで、今、赤の信号が、やがて、いつかは、ボタンが必要になるかもだけど青になる様に、この段取りで僕は椿さんに惚れてしまわないといけないらしいんだ。椿さんのロジックによるとそうらしい。
ここまで言われる僕は、もう、どう返事をしていいかわからないけど、椿さんはそんな僕に言う。
「だから、貴方は、あなたの東雲春夏を取り戻して、そのあとでいいわ、一応タイミングは私たちに任せてね、その後、私達との子供を作ってもらうの、大丈夫、育てるのもこっちでやるから、責任を持って、あなたという遺伝子をもらった将来有望な、いえ、約束された魔道王を育てて見せるからね」
って言うんだよ。
とても嬉しそうに、そして希望に満ち溢れる様に弾む言葉で告げるんだ。
「楽しみね、牡丹」
そう言う椿さんに、
「椿、重い、私の上から降りて」
って牡丹さんにしては珍しくキレて言ったた。
僕は、身動きが未だ取れない椿さんを抱きかかえて、牡丹さんから下ろした。
「え? 何これ? お姫様ダッコってやつかしら、すごいわ牡丹、私、今、あの伝説のお姫様抱っこされてるの、そして助けられてるのね、いいわね、いいものね」
って興奮気味の椿さんだけど、普通に脇に手を入れて起こして、浮かせて牡丹さんから剥がしているだけで、決してお姫様ダッコではない。どちらかと言うと、伸びきった猫みたいな姿勢になってる間抜けな姿だから、そこにロマンはないから。
そして、助けているのは下敷きになってる牡丹さんの方だから、椿さんの方はどかしているだけだから、所謂、排除してるだけだから。
ともかく、椿さんの意思というか目的はわかった。
少なくとも今はどうこうって問題でもないって判断でいいと思う。
検証性のない履行の日付を決めていない約束なんて、今は全部後回しでいいや。
もしもそんな事を真剣に言ってきたら、その時考えよう。
今わかってるのは、ここ、ラストダンジョンに繋がってる場所に急ぐ事、そして、僕としては最も優先したいのは春夏さんがここに居るって事、だから、彼女をまた取り戻せるって事。
それだけ考えて突き進む事にした。
そっか、僕、此花さん達とも結婚しないといけないんだな。
そう思う自分に対して、なんだろう、こういった状況にも要求にも特に驚きもしないて、慣れて来てる自分が嫌いになりそうで、複雑でも理不尽でもこう言った要求や希望に慣習になりそうなこの現状に、慣れって怖いなあ、って、ちょっとショックも受けてる僕だったよ。