第101話【此花さんたちの真の目的】
そっか、春夏さんはいたんだよ。
そしてそれを自覚させる為に、彼女達、僕とアキシオンさんを封じて、全力でこんな事していたんだ、ってかしてくれたんだ。
実際の所、北海道にいさえすれば、僕はこのダンジョンに守られてるから、それなりに無敵な防御だったんだけど、それって、春夏さんが、って言うより、そこにいるダンジョンの中に注がれている彼女の無意識が僕を守ってるって考えていたんだ。
でも違ってた、僕の側にいたその片鱗ともいえる小さな意識は、僕が考えているよりももっと大きな欲求になって、僕の中に春夏さんとして残されていたんだ。
こんな事、全く気がつかなかった。
考えもしなかった。
それにさ、僕、もし、この計画の上で、此花さんから真剣に勝負を持ちかけられていたら、そこにある可能性やら、彼女達への配慮やらで、ここまで真剣に戦えなかったって思う。
それを見越して、彼女達は僕に挑戦してきてくれたんだ。
思わず、本当に感謝な気持ちになって、ジーンとする僕なんだけど、そんな顔をジッと、見つめる椿さんは、
「感謝は不要よ、あなたには借りがあるもの」
って言うんだけど僕にはトントその見当がつかない。それにさ、いつもいつも、命懸けなところから本当にどうでも良いことまで、助けてもらっているのは僕の方って思ってたから、僕は椿さんの感謝される覚えなんてないんだよ。
すると、椿さん、
「牡丹を助けてくれてありがとう……、まだお礼してなかった」
って言われる。
いやいやいや、助けられているのは僕の方だよ、って思うんだけど、椿さんの認識ではそうではなかった。
あの時、僕は牡丹さんと一緒に危機的状況ではあったものの、土岐やリリスさんを含めて、シンメトリーさん救出作戦で戦っていた。あの時の本気の完全体の葉山相手に、やりあっていた。
今考えると、あの対立がなければ、きっと葉山だって助けられなかったって思うし、あの時、全力で葉山完全体を退けなかったら、葉山本人とも今みたいな関係は築かれなかったって思う。
ここに至るまで、数々の問題を解決して、手伝ってくれた此花さんたちにはいつも感謝を禁じ得ないんだ。って話す前に、
「あなたはいつも私たちに、驚きと、そこへたどり着くための方法を考えさせてくれたわ、普通の人なら考えもしない事を、不可能を平気でぶつけてきてくれるの、そんなの嬉しいじゃない」
って相変わらす、ピクリとも動けなくなった体を、離れた位置からやって来た牡丹さんが支える様に、椿さんの上半身を持ち上げて支える。
そしたら、首がカクンと、まるで首が座ってない赤ちゃんみたいに落ちてしまう。
笑いを堪える牡丹さんに、
「ああ、魔王アッキーの顔が見えなくなったわ、起こして頂戴」
って注文をつける椿さんの言い方に、また吹き出しそうになる牡丹さんは、それでも椿さんの頭を、介護の様に顔を支えてこちらに向けて来る。
「あ、いたわ、ありがとう牡丹」
って言葉にまた吹き出しそうになってる牡丹さんだ。楽しそうで何よりだよ。で、どこまで話ったっけ?
って、一瞬、なんの話をしていたのかさっぱり見失ってしまっていた僕に、椿さんは、
「それでも、あなたがお礼をしたいと言うなら、今度は私たちの野望を叶えるためのお手伝いをしてほしいのよ」
って言い出した。
「僕にできることなら良いけど」
って言うと、
椿さんは、一瞬だけど牡丹さんに視線を送って、そして再びその大きな瞳を僕に向けて来るんだ。
「私達って双子でしょ?」
って言うんだよね。うん、そうだね、って一応は頷く、何を言いたいんだろ?って、そんな疑問もあるから、声とか出なかったけど、ひとまず頷く。
「そして、双子っていかにも魔道士って感じで無敵でしょ?」
って言い続けるから、んーどうだだろうなあ、でも椿さんが言うからそうなのかな?、って思う。後ろの方では魔法番長がちょっと対抗意識を燃やしているみたいだけど、良いから、ちょっと角田さんは話に入ってこないで。
「だから私達も双子を作りたいのよ」
って言い出す。そうなんだ、としか言えない。と言うか僕はこの件に関して反対も賛成も、意見を述べるべき立場にないってそう思うから、
「う、うん」
って言う、特にどうともない返事になる。
というか、なってしまう。だってそんな事、真剣に考えるなんて今の僕には不可能だからさ。
知識としてはわかるよ、でも、意味がわからない。