第99話【収束する流星の豪雨】
今とメンバーも立ち位置も違うから気がつかなかったけど、なんだろう、きっかけも過程も見てないのに、本当にこれは心のそこからジワジワとヤバイ感じが広がってゆく。
一瞬、僕の脳裏に、リリスさんと、土岐の顔が浮かんで、そして、ダンジョンの中にありもしない煌く星の夜が思い浮かんだ。
今!!、そうか! まさに、その時の再現だよ。
対象が、あの時と違って葉山でなく、僕だって事で、その立ち位置からなかなか見えなかった。だって、此花さん達、いつも通りだったから、気がつきもしなかったよ。
一人で、永遠にも近い長い『導言』をその唇から放ち続ける牡丹さんに僕はようやく気が付けた。
脳裏に浮かぶ魔法の種類。
「流星雨」
僕はそう確信した。
あの時は、流星の星の落下に、同じ術者である牡丹さんに守られた葉山の完全体を押し下げた、起死回生の一撃。
「完全体ってなによ!」
ああ、ごめんごめん、ほら、茉薙と葉山が一緒だったからつい……。
怒りに接近して来る葉山に謝る。ラスボスみたいな言い方して悪かったよ。でもそんな攻撃だよ、きっとダンジョンの中で使われた魔法の中でも最大規模な魔法。
ちょっと、どこまで本気なの? って思ってたら、
「秋さん、これ、流星雨ではないですね」
ってうちの魔法担当である角田さんんが言うんだよ。
ああ、ちょっと手加減してくれてるのかな? 流星雨よりも若干手心を加えてくれてるのかな?、『流星霧雨』ぐらいかな? って思ってると、
「導言の実行内容に、『集束』が入ってます、規模に関しては個人向けくらいの大きさで、落ちて来る流星の質量は10倍以上です」
って角田さんは言うんだよね。
ふーん、って聞いてる僕なんだけどさ、まあ、こうなると此花さんの本気度ってのはわかって来るからさ、角田さんが言う意味については、大変、ってことだけは伝わるよ、どうしようか?
ってそんなふうに途方にくれる僕に、葉山に追撃をかましつつ、その後ろからついてきた椿さんが言うんだよ。
「座標はあなたよ、魔王アッキー、彗星の公転に巻き込まれなさい」
って、ゾッとするくらいの可愛い美人さんの笑顔を僕に向けて言うんだ。
これは、この姉妹のオリジナルの魔法。
その名は、椿さんが教えてくれた。本当に自慢気に、得意げに。
「吹き荒れる颶風は、渦を巻いて全てあなたに落ちる星、その名は『流星狂飆』、これを一人で回避する術はないわ、彼一人じゃあの魔法スキルは使えないもの」
そう言ってから、
「アキシオンを封じた今、これを回避する、もしくは対消滅させるには、あの『宇宙開闢の光』を灯すしかないわね、絶対に彼一人じゃ無理よ、早く出てこないと大変なことになるわよ」
って、僕の顔を見て、僕以外の誰かに話しかける椿さん。
一体誰に話かけてるんだ?
って言ってる側から、角田さんの叫び声。
逃げろー! みたいな事を言ってる。
でも対象が僕である以上、どこに逃げたって一緒だよね。せいぜいできるのって、みんなを巻き込まないように距離を取ることだけだよ。
空には、いや、ここダンジョンだから天井なんだけど、その天井の筈の空に夜空の瞬き。
ん? 違うな、あれ、星じゃないよ、星の集まったって感じだから星雲だね、いくつもいくつも現れ瞬く。
その小さな輝きが、一瞬で僕を包むような大きな光になる。
なんだ、これ……。
もうさ、避けるとか、逃げるとかって問題じゃないよ。
本当にそれ以前の問題。
輝きに包まれる僕。
本気でどうしていいのかわからないでいる。
そして、体が浮くような感覚の後に、真っ白な世界で、どこからか椿さんの声がしたんだ。
彼女は言うんだ。
「ほら、私の思った通り、現れたでしょ?」
「ちょっとやり方が荒っぽかったかもしれないわ、椿」
と、その辺はお姉さんな牡丹さんがきちんと嗜める。
そんな会話を聞きながら、僕はそこに懐かしさを感じるんだ。
椿さんや牡丹さんじゃなくて、もう一人を感じたんだよ。
そっか、そうだね。
こんなに近くにいたのに気がつかなかった。
いや、いないんだけどさ、でもいるんだ。いやいたんだ。
聞く事のできない声はずっと僕に話しかけてくれていて、触れられない体も、だから見えない姿も、北海道にいる僕にずっと寄り添ってたんだね。
思い出しているのか、それとも本当にそこに存在しているのか、すぐ近くに感じる優しい香りに、ちょっと胸がいっぱいになる僕だったよ。