第93話【考えつく限り最悪で最凶の敵、此花姉妹】
僕はこの瞬間に、何か、こう、頭の中で、真っ白いものが開いたんだ。
それは、その『摂理』に対しての対応、そして回答。
ああ、そっか。
って、そう思った。
ずっと、春夏さんが言っていた言葉。
僕と交わしていた約束。
『世界を一撃で滅ぼせる力』
ってこう言う事だったんだ。
「……オーナー?」
あはは、なんか笑ってしまう。
そうだね、僕もそう思ってたから、これは、そうか、そうなんだね。
そりゃあ、なんでも知ってる、なんでもできるアキシオンさんでもびっくりだよ。
僕も笑ってしまってるけど、驚いてるもの。
つまりさ、春夏さんは、この摂理みたいなモノを壊してしまえ、って僕に言っていたんだよ。
今のいままで、この落ちて来る異世界の事だって、もちろんそれは、大陸だから物理的なことで災害的な事だって思ってた。
落ちて、北海道に衝突する前に、この今もマゴマゴと落ちそうで落ちない異世界の大地を壊すって事だってそう考えてた。
でも、そうだよね、あの口数は少ないけど賢い春夏さんだもの、異世界を壊すなら異世界を壊して、ってそう言う筈なんだよ。
そうじゃあなかったんだ。
この世界と今落ちてる異世界を包括する、この世界そのものを壊すことを望んでいたんだ。
言い方を変えるなら、この世界を覆う世界事態の囲というか括り。
だからこそ、北海道ダンジョンがここにある理由。
違う世界の接点がここだった。
もちろんそれは偶然かもしれないし、もしかしたら、誰かによってここに誘導されてたかもしれないけど、経過はどうあれ、結論はここに至って、そんな理由だったんだ。
それは、つまりは、みんなが助かる方法。
そして僕が考えつく以前に、大分昔からこの二つの世界は混ぜられ初めていたんだ。
ここに落ちてきて、死を望む魔物の人達、そして、落ちようとする異世界を押し戻そうとした三柱神。
互いの世界を望むと言うよりは、形の上では抗争を作って、淘汰され、分離しようってつもりだったんだ。
もちろん、それは全部じゃないけど、この事実を知ってるもの達なら、『摂理』のそれに沿う形を作り出して、数を減らして、滅びの形態を取ってでも、それが例え少数だとしても仲間の生き残りにかけてたんだね。
なんだ、春夏さん、僕と同じだよ。
僕もね、なんとなく、みんな助かるといいなって、知らない北海道の土地かもだけど、ここなら幸せに暮らしていけるって思ってたんだ。
多紫町みたいに地域から隔絶なんてしなくても、きっと上手に混ざってやっていけるって思ってたんだ。
春夏さんも同じ考えて、同じ結論を求めてた。
よかった、これなら誰も不幸にならない。
自然と力が抜けて来る。
ああ、なんか安心した。
どっちが助かって、どっちが滅びるって話じゃなかった。
今更だけど、僕、全身が強張っていた感じがわかったんだ。
そうだよね。
半分助かって、半分生き残ったとしても、その半分の生き残りの大半はどこか釈然としない物が残るから、その時は良くても、それ以後、立ち返れもしない歴史に置いて、ああすれば良かった、こうすれば良かったなんて、人類規模での後悔が残るから、それは澄んだ水の奥底に沈む汚泥の様に、罪の様になって人を苦しめるから、いつまでも残るから、世界の半分すら幸せにするのって難しい。
でも、これなら、みんな幸せになるね。
そう思ってると、ここから先、どんな敵が現れようとも平気だね。
もう、どっからでも、誰でもかかって来いよ、ってそんな気分になる。
そして、僕は先頭に立って、驚愕の中に更に、衝撃を覚える事になる。
なぜなら、桃井くんが操るゾンビ達を焼失させ、解呪した人物の正体がわかったから。
それは、なるほど、ってその能力については納得を、そしてその行為については疑問を、ただ、疑問を与えるだけの彼女達。
そう、彼女達なら奇跡も起こすさ、って思えるその正体は……
「ようやく来たわね、狂王、じゃなくて今は魔王だったっけ?」
「笑王よ、椿、間違わないで、笑える王ではなくて、笑われる王なのだから」
僕の、僕等の前に立つ彼女達。
それはとてもよく知る人物で、そしてかつては仲間だったこともあるし、今もそうだって思ってた。
僕の前に立つ彼女達、それは、今までみたこともない神々しいローブを纏った、双子の姉妹。
僕がよく知る此花姉妹に他ならなかった。