第91話【その奥底に待つ正体不明の存在】
ゴブリンが異常進化したと言うか希少進化した希少種であるブラックをその後、2体倒して、更に、ドラゴニュートの強化版らしい竜神を三体倒して、僕らは中階層を進み続けた。
そしてその間に、アイナノアさんの仲間を蘇生させて、今は彼女の失ってしまった仲間は全員、一緒にいる。
綺麗なエルフさん達。
みんな寄ってたかって、アイナノアさんと抱き合って、普通に『牛子』って呼ばれてた。
このままみんな、安全な地上に帰ってもらってもよかったんだけど、今はこんな中階層でも北海道ダンジョンの条理とか通用しないみたいだから、帰り掛けにまた襲われたらって思うと、それも出来ない。
それにしても、このダンジョンの運営側でもある敵、だからモンスターを利用して来るなんて、ちょっとびっくりした。
それにこの敵、きっと向こう側の魔物な人達とも違う気がするんだ。
なんて言ったらいいのか、もっと根本的な違いというか、純粋に排除する意思みたいな、言い方を変えるならもっと単純、純粋な力だけを感じる。
迷いがないもの。だからきっと思念もないかもしれない。
だってさ、さっきのブラックにしても、今まで戦ってた竜神にしても、設定の上ではあるものの、結局、強すぎるとか、加減出来ない理由に寄って採用を見送られた人達だ。
それが、普通にこうして出て来るなんて、ちょっと常軌を逸してる。
それは確実に排除しようと言う意思の現れでもある。
これじゃあ、中階層に出て来るトラップも何もかも、敵対者として格段にレベルアップしているって予想が付くから、なかなか迂闊なこともできない。
お陰で、寄り道もせずに真っ直ぐ進んでいるんだけど。
って思っていると、
「あ!」
って桃井くんが叫んだ。
「どうしたの?」
って尋ねると、
「はい、前に敵です、いや違うかな?」
って言い出す桃井くんは、今、視点を探す様に自分の目を押さえて、
「ゾンビにしたブラックからの情報ですが、一瞬で灰に変えられました」
って言うんだよね。
そうなんだよ、あの時倒して二体のブラックは桃井くんの術によってゾンビ化、桃井くんと感覚共有した状態で、僕らの行先のだいぶ前を歩かせていたんだ。斥候の役割をさせていたんだけど、そのうちの一体が消えた。
もう一体は、かなり後方を歩かせていたんだけど、そっちいは無事見たい。
「魔法かな……」
って桃井くんは言うんだけど、
「うーん、ブリド様の奇跡に近いかなあ……」
聞けば、最先頭にいた、相当な距離を先んじてもらってたブラックの一体は、まるで紙が熱せ自然発火するみたいに、燃え尽き、灰になって消えたらしい。
これって、ブリドの奇跡で、『腹ワタから内燃せよ』って言う奇跡らしいんだ。怖いなあ。内臓から燃えてしまうなんて、ホルモンかよ、もつ煮込みかよ、とか、そんなどうでもいい事を考える僕に、桃井くんは「うーん」って悩んでる。
なかなか結論が出せないでいるけど、少なくとも前の方に敵がいるって事だね。
って考えてから、え? ブリドってうちの妹の前の名前じゃなかったっけ? 妹になる前の三柱神だった頃の名前。
「今も、妹さんはブリド様よ、私が聖王に指名されているんだから」
って葉山が言うんだけど、そうだったね、妹も、神様らしくもないからすっかり過去のことだと思っていたよ。
僕は、桃井くんに、
「相手とかの姿は見えなかったの?」
って尋ねるんだけど、桃井くんは、
「かなりの遠距離からの攻撃です、でも人影は見えましたから、多分、二人以上です」
って言うんだ。人影って事は相手は人ってことかな?
でも、まあいいや、やってきたら相手すればいいんだから、この先に敵がいるってわかっただけでも桃井くんのゾンビは役にたってるよ、って言おうとするんだけど、
「後方に配置した竜神のゾンビ を前衛に出します、あれなら魔法にも奇跡にも耐性がありますから、いいですか? 秋様」
って言われるけど、そっか、竜神もそれなりに綺麗に倒したから、そっちもゾンビ化してだったね。って桃井くんの周到さに感心する僕だった。
そして、そのまま僕の前を二体の竜神が通り前に出る。
形はリザードマンが神々しくなった感じで、鎧から重層なローブの様な姿になってるんだけど、顔はしっかり竜なんだよね。よろしく頼むよ。
って思って彼らの姿が前に消えて行く。
「秋様、歩くペースを落としてください」
って桃井くんに言われる。
距離を作るつもりだ。