第89話【いるはずの無い最強種】
そうだよ、そう。桃井くん、ダメだよそういうの。角田さん、もっと言ってやって。
「そんな事くらいで、揺さぶれる様な仲じゃないんだ、もうすっかりどこから見ても夫婦って感じだろ、安定感がありますよ秋さん」
とか言い出す、どこか優しくそして同種を見る扱いで、そんな風に言われる。
「で、第一子とかはもう既に?」
って真顔で聞かれるから、葉山も耳まで真っ赤にして顔を背けてないで、否定しよう、無言はここでは、この人達にとっては肯定になっちゃうから!
そういう強引な人達だから!
なんて会話をしてると、
「おい!」
っていきなり牛子さん、じゃなかった、アイナノアさんから言われるからびっくりして、
「え? どうしたの?」
って尋ねると、
「ここはダンジョンだろ? もっと警戒しなくていいのか? 敵だって出るだろうに?」
って怪訝な顔して言うから、
「いや、今はこんな状態だから、開店休業みたいな感じで、ダンジョンに敵をしてくれるモンスターは出ない筈だけど」
って僕は言う。
うん、まあ、そう。
結局は、ここのダンジョンって、ガチで戦闘する事はあるけど、運営側に回ってみてよくわかったけど、基本的に深部に到達するまでの抵抗としての敵、と言うかそれを演じる敵をしてくれる存在はあるけど、本気でダンジョンウォーカーを滅ぼそうなんて言う敵はないから、今の状態、だから異世界が落ちて来るこの状態なら、緊急事態なので、ダンジョンのモンスターとしての彼らは敵対しない筈なんだけどな。って思うんだけど説明がめんどくさいから、
「アイナノアさんは、ダンジョン出るまで襲われたりしたの?」
って彼女が何か言いたがってるのがわかるから、それだ尋ねると、アイナノアさんは緊張の面持ちで、
「一緒に来たもの達は皆、倒された、私だけが生き残って、地上に辿り着いたのだ」
と悲しそうに言った。
そっか、だから僕らに対して、あれだけ憤りをあらわにしていたんだね。アイナノアが、牛子さんが生還する為に多くの犠牲が払われたんだ。
そんな彼女の立場を考えると、自分の事じゃないけど切ない、いや悔しいだろうなあ、、ってアイナノアの気持ちを考える僕に、その彼女自身が急に僕らの前に出てきて、やっぱ、早いなこの人、ってかエルフ。
「ぼやっとするな、来たぞ!」
って叫んで剣を構えようとするんだけど、そこをそっと止められる。葉山が、アイナノアが僕の前に出るのを制して止める。
「邪魔になっちゃうから」
って言うんだよ。
「いや、でも、しかし」
って僕自身も僕の後ろにいた葉山とアイナノアさんを振り向いてみてるから、とても焦ってるし、まるで信じられない者をみている様な、そんな表情なエルフさんだ。
大丈夫だって、例えどんな攻撃がきても僕には届かないんだ。
って、前を見ると、もう、その攻撃の手は僕の目の前にある。
次の瞬間には、それは弾き返されていた。
音が後から来た感じだから、質実剛健なその刃の一斬、いや二つあるからタイミングは一つでも二斬になるのかな? そんな一撃の後に彼女はわずかに浮いていた足をその地面、ここダンジョンだから床につけて、僕を振り向き言うんだ。
「お館様、お怪我は?」
あるわけないじゃん、蒼さん。
声には出さないけど、僕のそんな表情に納得というか安心して、前を見る頃には、吹き飛ばした相手はすでに葉山に刻まれていた。いや、突き殺していた感じかな? ちょっと早くて遠いからよくわからない、でももう倒してた。
そして、
「ごめん、何か聞き出すつもりだった?」
って、双剣型のアキシオンを鞘に収めながら、いつの間に相手を追従して切り倒していたから、ちょっと距離が開けてて割と離れた場所から聞かれるから、僕は、
「いいよ」
って言うと、葉山はにっこりと笑ってた。いい笑顔だけど、敵からの返り血が顔についてるぞ、って思う頃には桃井くんがハンケチを渡して、
「綺麗に殺しましたね、ありがたいです」
って変な発言してた。