第79話【葉山も大事なんだよ!】
でも、その中身は、一般の女子、いや、人間とはかけ離れた生き方をして来た人間で、普通なら、葉山でなければ、とっくの昔にどこかでメンタルが折れてしまっても不思議じゃない生き方をして来た女の子なんだ。
だから、僕は今、ここで自分の思い違いに気が付く。
葉山は決して、僕の為に自分を犠牲にしようなんて考えてない。
自分の中に他人を宿らせて、しかも自分の意思をその体に委ねて、幸せになるなんて、普通の人から見たら、どんな呪いで罰ゲームなんだよって、思う、そんな状態も、彼女にとっては、かつての自分の人生を考えるなら、とても幸せな事なんだ。
言い方が悪いかもしれないけど、僕は、僕の横で、完璧な美少女で完璧な優等生を装う、いや完全にそうなれる葉山が、普通の人とは全く違って見えた。
ここに来て、ようやくその特殊性が見えた気がしたんだ。
特殊性ってよりも、彼女特有の価値観みたいな物。普通の人とはまっったく共有できないそんな不価値みたいな物。
普段の生活には現れる事の無い、彼女を構成する心の形を見た気がしたんだ。
つまりさ、全く同じって思っていたけど、普通に会話も価値観も共有できるけどスポーツだけダメって感じかな、僕は日本ハムファイターズの話をしたいんだけど、彼女はどうしてもコンサドーレの話をしたがるみたいな?
違うかな? いやそうとしか言いようがないよ。
だから、結局は葉山は本気で幸せになるために、春夏さんに体を明け渡す準備をしていたんだ。そうしてそれが本気で自分の幸せだって考えてる。
そんなの絶対、ダメ。
本気で僕はそう思う。
だって、前例があるからだよ。
僕は一度だって春夏さんの中に入っていたと言うか、その意識を徐々に取り戻していた春夏姉と会話したことがない。
つまり、春夏さんがその体に入った場合、多分だけど、一瞬の休眠状態になるんだと思う。
だから夢は見る。そして覚醒していない状態で、まるでお母さんの中にいる胎児の様に、音や声は聞いているんだと思う。
そして、それは、僕側から見ると、葉山の消失に他ならないんだ。
つまり、葉山は僕を認識できるって言ってるけど、僕は葉山を見失ってしまうって事だ。
だから、それはお別れであり、二度と会えないって状態を意味している。
葉山は確かにそこにいるかもしれない。
でも、それって、『僕の心の中に生きている』って状態と違わない、つまり、現実的な僕にとっての葉山の死だ。
二度と会えないんなだから、結局はそうなる。
だから、
「僕は、葉山がいなくなるなんて嫌だからね」
って言ったら黙っだ。
大人しくなった。
今後、葉山には要注意だな、目を離さない様にしようと思う。
基本的に、僕は葉山を放ってお来すぎたかもしれない。
安心してたんだよな、だって葉山優等生だもの。放っておいても大丈夫って考えてた。
まさか、こんな風に考えてるなんて思いもしなかったよ。
そんな僕の横にはいつの間にか蒼さんがいる。
葉山が心配で、葉山の言動が気になって現れたのかなあ、って思ってたら、
「お館さま、蒼は、多くを望みません、ただ、どこかのタイミングで、お館様の子供を身籠れれば、と、できれば、一男二十女くらいで構いませんので、もちろん、子供は責任を持って我町でそ誰ますゆえ安心してください」
って言われた。
すごい真剣に言われた。
もう、これ以上ないくらいの本気の眼差しで言われた。
ちょっと、どう返事をしていいかわからない僕を他所に、蒼さんは、
「では!」
って言って、いつも通りに僕の前から姿を消す。
いや、本当に何を言ってるの?
困惑をごまかす様に葉山を見ると、葉山は両手で頬を包んで、
「私、真壁に大事って言われた、いなくなって欲しく無いって言われた」
ってブツブツ言ってた。
大事とは言ってない。大事だけど。
でもみんな、もうちょっと緊張感持ってやろうよ。
今、異世界は落ちて来てるんだからさ。
順調だからいいけど、気を抜いたら怪我するよ。
って言いたけど、誰も聞いてなさそうなので、僕は僕の為に、落ちて来る異世界を、空に引っかかる様に浮かんでいる異世界をただ見つめていた。