第122話【馴染む感覚、それほどでもなかった暴力】
本物も本物、ガチな忍者の攻撃してきた。
と思いつつ、本当の目的もそれではないことを僕は知ってる。
これ、この手裏剣は囮りだよね。
そして、烽介さんの放つ、本分は、もうすでに僕の後ろから僕に向かって迫って来てる。
ああ、大丈夫だね、このくらいの速度なら、『触れて』からでも反応できる。
それは、透明な『鎌』だった。
だぶん、ガラスか何かで出来た、きっとそれなりの重さがないと、この攻撃は成立しない。
所謂、鎖鎌的な、とっても忍者らしい武器ってことだね。造りは今風になってるけど。
で、さ、僕への首への攻撃も囮りだね。
本命は…………。
ガキんと、弾くのは、僕の右足を狙った攻撃だった。
手裏剣同様、二つ、鎌は放たれていたんだ。
同じモーションで、同じ角度で、位置を変えての同時攻撃。
やるなあ!
これは僕の知らない戦い方だ。
そして、この攻撃を完成させるための最後の一手が今、僕の目の前に迫る。
それは烽介さんの特攻、完全に守りを捨てた、僕をなんとしても倒す、って高い意識の上での殺意。
だから、僕はそれに答えないとって思った。
瞬きよりも速い攻防……、ではなくて、攻撃と攻撃が交差しようとしてる。こんな言い方になるのは、烽介さんの攻撃は僕には届くことはないから、だから、僕に到達しようとする彼の意識は永遠だって思う。
意識なんて介在しない一斬が、烽介さんの体側にそって長い一撃が入ろうとする。
僕はこの時、烽介さんの本物の殺意に引っ張られていたんだって思う。
だから加減なんてしてないんだ。
マテリアルブレードは烽介さん体を走る。彼の攻撃が入る前に、綺麗に入る。
なんだ、マテリアルブレード、斬れないモードだ。こっちはすっかりやる気でいたから、余計な事するなよ、ってそんな気にはなるけど、これが入ってるってことはさ、烽介さん、もう動けないよね、このまま数撃って押し切ろうかな、そうすれば結果は同じだしね。
いい感じ。僕は僕の攻撃が邪魔されないことに快楽にも似た喜びを見出してしまう。
僕はさ、この時、どうしようもうないほどの、思うがままに剣を振るうう事ができるってことに、喜びを感じていたんだ。
烽介さんが死んでしまうかも?
いいよね、だって、彼は僕を殺す気で襲ってきてるんだ。じゃあ、僕が彼を殺してしまってもなんの問題もないんじゃないかな?
殺す意識がある人がさ、自分の死を覚悟してないなんて虫のいい話は無いよ、ないない。
おかしいな、僕の意識。
変だぞ、僕の考え。
でも止まらない。
どんどん腕が、刃が加速を求める。
しかし、それは突然の終わりを告げる。
木刀がさ、白木の木刀が、僕と烽介さんの間に優しく差し込まれるんだ。
烽介さんさんが崩れ落ちる様に倒れる。操られていた糸が切れた人形みたいにどさりって感じ。
あれ? 終わっちゃった??
「秋くん、ここまで」
春夏さんのいつもの優しい声に、一瞬、現実というか、今が来た感じになる。だから僕の心はどうしようもないくらいに落ち着いて来るんだ。
まるで、沸騰してる熱湯が、たった一滴の水で泡立ちをなくすみたいにさ、静かな水面になるんだ。
ああ、なんだ、もう終わっちゃうのか……
でも、なんか馴染んだ。
体にしっとりとダンジョンが染み込んでくる感覚。
なんだ、思ってたより上手くやっていける感覚が来ている。
どこかホットしていた。
同時に、角田さんが、
「さて、秋さん、次のお客さんが、団体で来たみたいですよ」
って言うんだよね。
それを聞いても尚、終わってしまったんだあ、ってことに、ちょっと残念な気持ちと、その先へ行かないで止めてもられたことにホッとしてる僕だったよ。
深階層の人の強さってこのくらいなんだな…。
思ったほど頑丈でもないんだなって、なんか残念。
認識を改めなきゃって思ったよ。