第77話【自分を失っても葉山静流は真壁秋に愛されたい】
葉山からの提案は、
「つまり、葉山は自分の体が春夏さんの依代になるって、そう考えている訳だ?」
そう僕が言うと葉山は、
「うん」
って嬉しそうに答えた。
「そんなのダメに決まってるじゃん」
と僕は僕らしくもなく、この体の中にまだ残っているであろう、狂王としての威厳を出してか出してないのかよくわからないけど、そんな風に彼女の申し出を断る。
すると、うわ、なんか凄い威圧見たいの来た、ブワ!って、体全体に叩着付けて来るくらいの事実風って訳じゃないけどなんか来た。
あ、葉山の目が怒ってる。
そして、思い出した。
そうだね、葉山、聖王だったね。正式な、僕の威圧に対して威圧で返されてしまったってことか、なるほど、これ、ちょっと怖いなあって人にやられて改めて自覚するから、今後は控えようと思う。
でも、だけどもだ。
「そんな事、許せる訳ないじゃん、葉山、体を春夏さんに上げてしまうって事だよ、葉山がいなくなってしまうって事だよ?」
って僕は言う、ちょっと怒って言う。
すると葉山は、
「いるよ、かつての春夏姉がそうだった様に、心は残るし、思う事だってできるもん!」
「いや、ダメでしょ? その体にさ、一度だって春夏姉が出て来た事なんてないし、その存在にも気がつけなかったって事は、外から見るならいないも同然だよ、この北海道から葉山がいなくなってしまうって事だよ」
この場合、この世からの方が普通な言い方だったかもしれないかもだけど、今はそんな事考えている場合じゃない。
ともかく、僕は、葉山がいなくなるって事がダメ、絶対によくない。だから耐えられない恐怖を覚えたんだ。
「なんでよ! いいじゃん、体は残るんだから、私の体を使って春夏と一緒にいられるのよ」
「だから、良い訳ないでしょ?」
って、本当に何言ってるんだ?
「だから私は私の体を残して行くから、いいでしょ? 体だけの関係でも!」
葉山、言い方!!!!
思わず、周りを見渡してしまう。
よかった、誰にも聞かれてないな、ちょっと安心。
で、
「そんなの、春夏さんだって許す訳ないだろ?」
って、これは本人の意識として持ってる筈だから、これには同意しているみたいだから、言った。
「そうすればみんな丸く治るじゃない」
って言う葉山はなんかとても必死だった。目に涙貯めてるし。いや、ちょっと何を泣いてるんだよ、もう、そんな悲しい思いしない様に、全部取り除いてクリアーにしてる筈なんだけどなあ、これからは自分の思う様に生きてもいいんだ。
これ、全部、だから、異世界の落ちて来るって事件が終わって、きっとダンジョン無くなったら、きっと世界は、僕にとっての世界って北海道だけだけど、その世界は、僕らの知らない正常な世界へと戻るんだ。
春夏さんはそうしたくて、僕に全てを託して、ダンジョンへと意識を同化している。
僕への意識、僕を認識する記憶をこの北海道のダンジョン内外の付近に飛ばして、散らして、ここに被害が及ばない様に今も頑張っている。
だから、もう、かつての様な一つの人格には統合できないかもしれない。
あれは、春夏姉と言う、自分で生み出した特殊な器があったから出来た事だ。って今は
それを知ってる。
だから、ダメだよ、って思って、僕は気がつくんだ。
そうか、そうだ。
葉山もまた、彼女と同じだ。
そう、東雲の人間だ。
と言うか、そう調整されて作られた東雲なんだ。
だから、可能不可能で言うなら可能だ。
しかも、欠損していた体の大部分は北海道ダンジョンによって造られて補填されている。
そう気がついてしまう僕は、その残酷で残忍な研究の結果が皮肉にも今、論理立てて全てがここに、この日の為に用意された様な周到さを感じてしまう。
なんて思ったら大間違いだよ。
形の上では、机上の空港だよ、確かに材料は全てそうかもだけど、それをそう使うなんて、ありはしない。
「空論だよ真壁」
ああ、そう。うん、ありがとう、自分で言ってておかしいとは思ったよ。机の上に空港あったら便利だもんね。
すぐに間違いを葉山に否定されて、納得する僕だ。
ともかく、でも可能なのを、僕がそう思ってる事は悟られてる見たいで、でも、いや、ダメだよ、そんなの許せる筈がないって、否定する感情も丸ごと、葉山の思考に入られて
いる事を感じられる、自分の中でもザラリとした触り心地の、形にならない発想を浮かべる部分に触られた感触が残る。