第75話【あれ? 意外にショックを受けてるぞ、僕】
そして、この現状で葉山から聞かされているのにも、何かなあ、納得がいかないと言うか、事実は事実としていいんだけど、いろんなものが置き去りにされてる気がするし、そもそも気持ちがなあ……、まあいいや。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、
「真壁、残念? ガッカリ?」
って葉山が言うんだよね、嬉しそうにさ。
「いや別に……」
自分で言ってて、うわ、って思っちゃった。この返し、まさに強がってるみたいに自分が言ってて感じてしまうけど、これ以上何か言っても、どう論理立てて説明しても、たとえ事実で正論でも、きっと何言ってもトツボだ。
ちょっと悔しい気持ちもあるけど黙ってよう。
そして、葉山は嬉しそうに、
「でも大丈夫だよ、真壁には春夏が帰って来るんだから」
って言うんだよね。
「そっちじゃ無いでしょ、春夏姉の話でしょ? 春夏さんの中にいたって事で、今は葉山の話でしょ?」
誤魔化そうって態度がアリアリで、煙に撒こうかなって感じ、でも追求するよ、何をしようとしてるかは予想はついてるけどね。
ちょっとふざけてる葉山に対して僕は冷静だった。なんかいつもと逆って感じだけど、この場合は仕方ない。
そんな僕の反応を見て葉山はそれでもどこか嬉しそうに、
「あのね、春夏姉の方ね、記憶が残ってるんだって」
春夏さんの中にいた、と言うか彼女自身の自我は無い頃だと思うけど、未だ発生しない本物の春夏姉が、春夏さんの中に意識があったって事なんだ、って思うと、ちょっとびっくりする。
「だから、私達のことも知ってて、ずっと見てたんだって」
そっか、春夏さんの中の春夏姉って急に現れたわけではなくて、徐々に意識を持ち始めていたんだ。
ゆっくり、ゆっくり、まるで、手強い病魔を長期入院で根治して行く様に、長い間積み重ねていたんだ。
もちろん、それには時間をかけて、春夏姉の記憶、外に散った残留思念を拾い集めて来たって努力がなければ成り立たないけどね。
「だから、春夏姉さんとしては、その意識はあるものの、表現ができないでいたから、しかも、立場としては従兄弟の彼女の中にあったから、いつエッチな事初められるかって、ヒヤヒヤしてたんだって言ってた」
いや、無い無い。
あの時点では無理だよ。
僕の方からって無理、絶対に無理。
いや、春夏さんが、ってことじゃなくて、僕が無理。
ってか、あの頃の僕ってダンジョンのことで頭いっぱいだったじゃん。だから仲良くやろうとは考えてたけど、個人的になんて、本当に男女としてなんて!
ってかそんな事、これっぽっちも考えて……、いないよ。
いないよな、いや、ちょっとは考えちゃったかな? ああ、その片鱗でもあるなら、春夏さんなんて当然だけどここにいる葉山だって人の心とか勝手に読むしな、同じ心で同じ体にある春夏さんと春夏姉なら、絶対に春夏さんは同期させてる筈だしな、って思い返すと、もうなんだろう、曖昧にしておきたい記憶と若干残ってる不埒な思いとに恥ずかしさに身をよじりそうになる。
それになんだろう? 僕としては、葉山の言ってる現実が、あの時のいろいろな思い出をガッカリ感に向かわせている様にしか思えない。
そして、色々な思い出の全てを、今の春夏姉に覗かれて、いや見られてたって方が衝撃が大きい。
結構、平気な心境で表情はしている僕だけど、動揺しているのがわかる。
いやいや、慌てるな僕、まだ慌てる様な時間じゃないぞ、まだ大丈夫だ。
「あ、だからチューしたことも知ってるよ、真壁と春夏が」
わー!!!!
ちょっと待って! その事、今関係あるの!
あ、声に出てなかった。
「何を今更恥ずかしがってるのよ、みんなも見てたでしょ? 模擬って言っても結婚式だったから」
って言われて、ああそうか、って思い止まる。