第74話【結婚の話は一度白紙に代えさせていただきます】
もうね、ペッシって叩いたよ。
誰をって、葉山だよ、葉山の頭をね、てかオデコの中を、それなりの力でペシって叩く僕だよ。
一瞬、びっくりした葉山だけど、すぐに怒って、
「痛い! 何するのよ!」
って怒るけど、すぐにその怒りの目は僕の表情を見て黙る。
まあ、そうだろうね、怒ってるからね、僕。
特に女子に対しては、ほとんど何を言われてもどんなことされてもスルーなんだけど、ここを通り過ぎる訳にいかないからさ、もうね、本気の本気で、ペシってしたよ。
僕はしばらく葉山を見てから、
「じゃあ、そうした場合、葉山はどうなるのさ?」
すると、葉山の奴、一瞬の弱気を振り切って、
「聞いたの! 春夏に、姉の方に、だからわかってる」
って言い切る。かなり強気に言ってる。
でも、僕の表情を見て、そんな強気な表情も、ちょっと陰る葉山だ。
「な、何よ!」
って、警戒かな、威嚇して来てる。
僕は、空に浮かんだ異世界を眺めて、まあ、まだ時間もあるなあ、なんて考えて、
「いいよ、聞くよ、話してみてよ」
って言うと、何か、ちょっと言いたげな葉山は、一つ深呼吸して、そして、葉山じゃなくて、アキシオンさんが、
「いいですね、その態度、まさに王者の風格の192歩手前です!」
って興奮気味に言ってた。それって、近いの?って一抹の疑問は残るけど、アキシオンさんは引っ込んでて、って、かなり強めに頭の中で発想すると、なんだろう、喜びながら引っ込んで行く、頭の中だからわからないけど上手に去るって感じのアキシオンさんだった。
「真壁怒ってる?」
って、葉山が聞くけど、まあ、怒ってるよ、その中の数万分の一はアキシオンさんにだけど、方向的にはほとんど葉山にだよ。
でも、そうだね、怒って話を聞くもの僕らしくないし、ひとまず葉山の話を聞こうと思って、
「そんな事ないよ、でも、内容にもよるからね」
って釘を刺しておいた。
すると、葉山は語り出す。
「あのね、春夏がね、春夏の中にいる時の事を聞いたの、ああ、つまり、真壁の親戚のお姉さんが、今はダンジョンになってる春夏の中にいたときの話ね」
そうなんだ。その話自体よりも葉山が春夏姉とそんな話をしていたことの方がちょっと驚く。
だって、基本、あの春夏姉って、他人を自分の下に置くことはあっても、友人知人の様に人と話を、まして同性とそんな話をするなんて、まず無いと思っていたから、自分から聞きたっがっても、自分の事を話すなんて、僕にもしてないから、かなり驚く。
もちろん、僕は葉山の人間関係を全て知ってる訳じゃあないから、それに葉山って、人として優秀で、フットワークが軽いから、そんなふうになってることもあるんだろう、って違和感なく納得はできる。
その葉山、気がついたみたいにい、
「あ、そうだ、春夏、今いる方の春夏ね、わかりにくいから春夏姉さんの方ね、今は同じ歳だけど」
って前振りしておいてから、
「真壁との結婚の話は、一度白紙に戻させてもらいます、って言ってた、伝えるの忘れてたよ、ごめんね」
うん、まあ、いいよ、ってか、そんな昔の約束、今の今まで忘れてたよ。
大体、当時の僕って2〜4歳児の時の話でしょ? 今となってはそんな恥ずい事言ってたなあ、くらいの思い出でしか無いよ。もう既に、忘却の彼方だよ。
今は女子高生の娘さんが、お父さんと一緒に洗濯しないで!って言ってる娘さんが、かつて『わたし、パパのお嫁さんになるー』くらいの内容だよ。
「一生懸命、生き返させてもらって感謝はするけど愛はないから、って言ってたよ」
うん、まあ、いいよ、でもなんで、ここに来て、僕婚約破棄を言い渡されているんだろう?
僕としては全くその気持ちの無い春夏姉だけど、なんか本当に失恋している様な気持ちになるから不思議だ。