第73話【葉山の決意、すっと思い続けていた僕への提案】
ああ、今の段階では食べようとも思ってなかったよ、だから、スッと差し出すと、もうはちきれんばかりの笑顔。
「おー、この御恩は生涯忘れません」
と言って、上品にひったくると、そのまま開けて食べ始めた。今日はスプーン持ってるみたいだね。
そんな様子を見ながら、
「結局は最初の計画のままか」
とカズちゃんが呟く。
「『地底に横たわる名もなき偉大な白き神』が拾う命のままにだよ、あっちの世界でも変わらなかったろ?」
ってシンメトリーさんが言った。
「黒神様が頑張ってくれたお陰でここまで大地も保ったしな、いい落とし所だ」
ってそんなふうにカズちゃんも会話をしていて、
「やっぱり神様なんだね」
って、思わずそんな言い方をしてしまう。
うん、これは春夏さんの、僕のそばに寄り添う春夏さんの事を言ったつもりだけど、それでも、ちょっとした違和感は拭えないんだ。
いや、ほら、僕の世界の、僕の知ってる神様ってのとはまるで違うからさ、もちろん、異世界側は現存している神様だから距離が近いのかなあ、ってそんな感覚を受けるんだ。
すると、カズちゃんはそんな僕の思いを掬う様に、
「なんだよ、今更、春夏の正体を知ってビビってるのか?」
なんて言われるから、ああ、そうなのかな? いや、でも違うなあ、そうじゃなくて、なんか違うなあ、って考えてるだけで、なんて言うか、そのあり方が、ちょっと僕らの知ってる神様とは違っていて、
「多分、僕達の世界と違って、神様が現存していて、しかも身近にいるなんて、ちょっと考えられないって言うか、不思議な感じがしてさ」
と言うとカズちゃんが、
「そうだな、お前らの言う宗教とはだいぶ違うからな、私達の神様ってのは私達に奉仕してくれる存在で、見返りは求めないんだよ、だから願えばたいていの事は叶えてくれる、もちろんできる範囲内でな」
ああ、そうだね、だから春夏姉は生き返ったんだ。
あの時は、僕は何か対価を払うなんて考えもしなかったよ。
叶えてもらえて当たり前の子供だったんだ。
そしてシンメトリーさんは言うんだ。
「大分、お前らの方に傾いて来た、いよいよ最後の時を迎えるぞ」
と、どこか誇らしげに、それでも若干の寂しさを思わせる表情が僕に言う。
落ちて来る異世界。
そしてそれは最後の時。
だから彼が派遣されて来たんだ。
僕は、その思惑をしっかりと受け取るつもりでいる。
「準備はいいアキシオンさん」
一応の声をかけると、
「いつでも、どこからでもどうぞ」
と僕に語りかけて来る。
そんな時、差し迫る最中、急に葉山が僕に声をかけて来るんだ。
「ねえ、真壁、ちょっと良い?」
なんだよ一体、って思って、葉山を見ると、いつになく差し迫った感じ。
絶対にロクでも無いこと考えてるってわかる。
「そんな顔しないで、いい話だよ、それに絶対にうまく行くから」
って葉山が言うんだよ。
溢れる空気が風になって吹き荒れる札幌、ここ大通公園で、妙に通る葉山の弾む声。
いいよ、聞くよ。聞くだけだけどね。
僕はアキシオンさんへ声をかけて準備していた事を一旦やめて、葉山の話に耳を傾ける事にした。
そして、葉山は語る。
「春夏にこの体を、私の体をあげるの、いい考えじゃない?」
ほら来た。
本当にね、この子はね。
あまり得意じゃ無いけど、ちょっと本気で怒ろうかなって、笑顔の葉山を見て思う僕だったよ。