第72話【北海道は故郷デスから】
ほとんど毎日が本気で戦や武器に溢れていた抗争の中でも、ノンビリと言うか、平和的な不思議な空気に包まれてたあの町を思い出してしまう。
あの町もそうだった。
統率の為に、家の上位下位はあるものの、位とか支配とかではなく、その能力に応じた適材適所な感じで、それはまるで町全体を守るが如く作られていた。
「多紫町の様です」
って蒼さんが呟く。
僕も全くそう考えていた。
「すまないな、そう言う威力勢に対しては謝罪させてもらうよ、あいつら、そんなふうにしか接し方を知らないんだ、だから相手をしてもらって助かるよ」
シンメトリーさんの言葉に、僕はなんとも言えない気分になる。
だってさ、こっちは、春夏さんと共に、その世界を壊そうとする、いやそれを確実に実行するつもりだったから。そんな異世界の中にあって、彼女達は喩え一部でも異世界を存続させたいと願う、そんな勢力だったから、僕は彼女達の希望に対しての敵そのものだからだ。
世界をさ、幸せに導こうって高い意識と完璧な計画を持ってしても、きっとその手は全てを救えない。
そんなのは当たり前だよね。みんな考えてることは違うから、だから良かれと持って、大きな器で掬い上げた時、必ずその中には不幸になってしまう人間もいる。
こんな当たり前の事なんて、誰もが知ってることで、どこかで経験していることで、だから、どっか諦めてしまう気持ちだってある。
でも、こうして実際に自分の目の前に置かれると、それなりに気持ちと言うか決心の表面に手を置かれてるみたいで、どこかチクって痛みにも満たない知覚というか感覚に矛盾してるかもしれないけど、そちらも気にかけてしまう。考えてしまう。
どうしよう……と思う気持ちはあるけど、するべきことはもうすでに決まっている。
「気にするな」
ってカズちゃんが言う。
「そうだ、お前達は、この抗争での勝者だ、私たちはきちんと戦った、だから、もういい、できなかった事には納得しているし、安心もしているんだ」
とシンメトリーさん。
そしてシリカさんが、
「私、北海道好きです、大好きです、だから、自分が迷って裏切ってしまった事を後悔しません、私達はカンパイですから!」
と言って、夕張メロンピュアゼリーをどこからともなく出して来て僕に差し出す。
そして僕がそれを取ると、自分ももう一つ出して、僕の手に持って、どうしたらいいんだろう?と行き場を迷う夕張メロンピュアゼリーとコツンと当てて、ああ、乾杯だね、って気がつくと、戸惑う僕の顔を見てニッコリと笑うシリカさんだよ。
そして、
「こんなに美味しいものがあるのデス、だから、みんなにも食べさせて、決心させるのです、私達が間違っていると言う事を、立てない大地から去る事を!」
いつになく硬い意志をのぞかせる瞳。
最後にシリカさんは言う。
「でも、買い占めはダメです、最悪ですから、私の分は買い占めさせていただきます」
って、ちょっと悪い顔して言ってた。
どれだけ買い込もうとしているかわからないけど、北海道銘菓、生産追いつくといいね。
僕は割とどうでもいい、でも重要な心配をしつつ、ともかく3人の佐藤和子さんが納得してくれてよかったと、ホッとしていた。
だって、僕としてはどんなに酷い状況になったとしても彼女達と戦うなんて真平だから、絶対に嫌だったから、きっと僕にとってはそう言う人たち、いや北海道にとってはそう言う人達のはずだから、本当に助かったよシリカさん。
「食べないなら私がもらいマスよ」
って自分の分の夕張メロンピュアゼリーを既に完食しているシリカさんは、僕の手にある僕に譲渡したはずの夕張メロンピュアゼリーをジッと見つめて呟く。