第71話【もどってくれた恩人(神)達】
今にも泣き出しそうな、そんなシリカさんに、葉山からもらったマルセイユバターサンドを与えると、しっかり泣き止んで、しかも黙った。
その間に、
「まいったな、シリカの方はしっかし言い聞かせたつもりだったのにな」
ってカズちゃんが言って、
「この際言っておくが、こいつの技能は反則だからな」
ってシンメトリーさんが、ツギさんを指して言う。
まあ、何言われてもいいよ、再び彼女達がかえって来たんだから。
二つ目のマルセイユバターサンドを頬張ってるシリカさんが、
「無理です、私北海道好きですから、ずっと帰るのは無理です」
って呟いている。
ともかく、なんとかなって良かったよ。
それにしても、って思って、口に出して見た。今更隠すことでも遠慮する事でもないと思ったからだ。
「異世界にはいろんな勢力があるんだね」
するとカズちゃんが答えてくれる。
「そうだな、基本、みんな自由にやってるからな」
シンメトリーさんが追加して、
「勢力といよりも『個』の集まりなんだよ」
なんか、どうも僕らの思う社会とかまるで違うみたいだ。
「こっちの世界に干渉し始めて、最初にまず、苗字が流行ったな」
そうなんだ。
「そして私達が、こちらの地にある最大勢力である『佐藤』の名字をもらったんだよな」
とカズちゃんはシンメトリーさんに言うと、
「ああ、何度も名字の多さが勢力では無いと説明したのだがな、元々、集団とならない我らにはどうも伝わらなかった」
すると、葉山が、
「藻岩山を攻め込んだ勢力は、軍みたいな動きをしているとって、白馬さん言ってたけど?」
と言うと、カズちゃんシンメトリーさんは顔を見合わせて、
「ああ、あれはお前達の真似をしてるんだろう、本来あんな戦い方はしないぞ、しかも指揮官とかもいたらしいな、どこまで感化されているのか……」
ヤレヤレといった表情で、夢中でマルセイユバターサンドを頬張るシリカさんを見つめて、そんな事を言うシンメトリーさんだよ。
言われて、今更気がつくんだけど、そうなんだよね、あっちかの人達って基本的に自由なんだよね。
気風というか生き方そのものというか。
まさにカオスって感じだけど、混沌っていう割にどこか長閑な感じが否めない。
「よくそれで社会とか形成してますね? 文化文明はともかく、生活とかあるでしょ?」
ってだんだん遠慮のなくなって来た葉山がそのものズバリをいう、難しい事を言い出した。
「それはそうだ、だから強力に異世界を結束する存在もいるんだよ」
僕らの世界とは違いすぎてどうもピンと来ない。
そんな僕の表情を見かねてか、カズちゃんが、
「そうだな、こっちの世界で言う所のなんだろうな、大統領じゃなくてな、酋長?」
ランク下がったよ、で、説明しているカズちゃんがなんで疑問形なのさ?
「神様だな、多分、現存する神が私たちを統治していたんだ」
とシンメトリーさんが言う、っていうか見かねて言葉を繋いだ。
「ダンジョンで言う所のカズちゃんみたいな? 怪我しても安心的な?」
って葉山の問いかけに、ああ! なるほどってなる。
「ある意味、信頼と信用でつながる私達だから社会性は、こっちの世界よりは進んでいるとも遅れているとも言えるな、選挙とかないしな」
シンメトリーさんが言った。
なんか全くイメージできないけど、ともかくみんな仲良しって事なんだね。もういいいや、それでまとめておこう。
「だから、さ、みんなそんなに嫌わないでやってくれ」
って最後にカズちゃんがそんなふうに、まるで身内の失敗と言うか恥に対して謝るできた親戚の人みたいに言った。
いや、嫌うとか……
「ほら、まだこっちを本気で征服できるって考えてる奴らもいたんだ、全部倒されたけどな、お前の母さんと、真希にな、完膚なきまでに徹底的に」
ああ、そうなんだ、母さんそう言うの容赦しないからなあ、さすがに命まで取っては無いとは思うけど、二度と剣とか武器を取ってなんて思えないくらいはやってるとは思う。
「征服って言ってもな、信じてもらえないかもしれないが、あいつらも、結局、勝った負けた、ってのだけに拘っている様な幼稚な奴らなんだよ、それ以上もそれ以下もなくて、そうすることで受け入れてもらえるって考えているんだ」
その言葉に、なんとなくだけどわかる気がするのは、自分の中にその答えがある様な気がして、そしてどうしてか僕はその時、多紫町の事を考えてしまう、あの町の匂いがしたんだ。