第121話【勘違いに人違いに、訂正される忍者さんの認識不足②】
今まで、僕の思考とか思いがどこかに切り離されていたみたいになってた。
で、目の前には、したり顔の、誤解を拗らせた烽介さんがいる。
ここで、隔離された感情や思考が再びここに戻って来ていたことに気がついてホッとする僕がいる。
「ガキみたいな顔して、騙されるところだったぜ、確かに女みてーな軟弱な面してるって聞いてるからな、な、すっかり騙されたぜ、そっか、お前があの『瀑流の斬剣』、葉山 茉薙か!」
って言われて、完全にこっちを決めつけた顔してる烽介さん、なんかいいや、もう誤解とか解くのもめんどくさいやってなる。
まあ、こっち、だから烽介さんの方は完全な人違いだよね、僕、確か、真壁秋だしね。
そのまま放置するやたらと興奮する烽介さんは、もう言葉が止まらない。
「じゃあ今のが、貴様のスキル、そして技の『刃滝』とか呼ばれる攻撃なんだな、よし、凌いだぜ」
とか言い出す。
いやいや、今のは、母さんとやる遊びだよ、名前なんてないし、ましてスキルでもなければ必殺技でもないし、烽介さん凌げてもないよ。もう完全な勘違い。
そして、僕の剣、マテリアルブレードをジッと見て、
「それが、このダンジョン最強剣の一つ、マテリアルブレードだな、素粒子レベルから作られた、科学の剣ってヤツか、恐れ入ったぜ」
烽介さん、マテリアルブレードを知ってるから、びっくりした。
そっか、烽介さん忍者だもんね、やっぱり沢山情報持ってるよね、忍者って確か、元は諜報機関な筈だから、そっちの方は優秀なんだな。
そっか、そんなに凄い剣だったんだ……。
もちろん、僕は冴子さんに譲渡していただいただけだから、その素粒子レベルでウンヌンカンヌンは知らないから、思わず、感心して、
「へー」
とか言ってしまう。そうなんだね。なるほど、素粒子で出きた剣だもの、そりゃあ、忍者刀もそげきれるるってものだよね、仕組とか、働きとかよくわからないけど、そんな言葉まで出されると、凄い剣だってのがわかるよ。
で、わかるからなお、冴木さんとか心配になる。
大丈夫なの? そんなの勝手に持ち出して来て?
ちょっと心配になるから、この剣に関して、もし冴木さんに問題が降りかかるような事があったら、ひとまず、「僕がやりました、ごめんなさい」っていう事にしよう。
大丈夫、きっと少年法がまもってくれる。
それにしても、僕と同じマテリアルブレードを持ってる人が、このダンジョンにいるんだな、って、それも驚いたよ。いいな、烽介さん。色々情報を教えてくれる。もっと叩いたり突いたりしたら、もっと教えてくれるかもしれない。
「くそう、今頃、葉山 茉薙は、うちの首領とやりあってんじゃなかったのかよ? それとも、多月のお嬢様、あっさりとやられちまったのか? あれでまだ、甘いところはあるからな……」
とか呟いてる。
この人、結構、呟きが大きいから、みんな聞こえてしまう。わかりやすくて助かるけどね。
今もこうして戦ってる訳だけどさ、そのままどんどんと聞きもしないのに喋ってくれるから助かるなあ、って思うよ。だからここは黙って見守ってる僕だ。
そして、烽介さん、僕をちらっと見て、
「すぐに椎名が来る、ここはこいつを少しでも弱らす事ができたら、あいつの強力な魔法スキルのオールレンジ攻撃で、さすがの『瀑流の斬剣』、ひとたまりもないだろう」
と言って、僕達、だから僕と春夏さんと角田さんを一瞬見て、
「魔法スキルを持ってるヤツはいなさそうだな」
って不敵な笑顔を浮かべるんだ。
その表情がさ、口元はまるで見えない唇が、笑みを形作るのがわかるんだよ。
何か仕掛けてくるな? って思うと、烽介さん、一気に距離を取る。
この『鏡界の海』の足元の薄い水面が、波紋一つ立ってないから、多分、これが烽介さんの本気って知るのは容易かった。
もうね、何が来るんだろって思いつつ、烽介さんは両腕を振って来た。え? なんだろ? って思う思考と、そして、それを視認する意識は同時だった。
思わず、
「うわ!」
とか言っちゃったよ。
僕は、僕の喉元に放たれた、それを難なくマテリアルブレードで弾くと、それは、足元の水に落ちて弾んで、薄い水の底に落ちる。
うわ、手裏剣だよ。ガチに忍者だよ、烽介さん!!